なぜ森保Jは大量得点を求められた最下位ベトナム戦を1-0辛勝で終わったのか?
最低限のノルマだった勝ち点3は手にした。先行されていた上位勢にも詰め寄った。それでも、試合後の日本代表を支配したのは不完全燃焼の思いだった。 カタールワールドカップ・アジア最終予選の第5節が11日にいっせいに行われ、日本は敵地ハノイのミーディンナショナルスタジアムで、開幕4連敗でグループBの最下位にあえぐベトナム代表と対戦。前半17分にMF伊東純也(28・ヘンク)が先制ゴールを決めたものの、その後は追加点を奪えない展開のまま1-0で辛勝した。 3勝2敗と白星を先行させた日本は、中国代表と引き分けたオマーン代表を抜いてグループBの3位に浮上。首位のサウジアラビア代表と引き分けた2位のオーストラリア代表に勝ち点1ポイント差に迫ったが、得失点差の争いも予想される今後を見すえて複数ゴールが求められた一戦で、依然として解消されない得点力不足を露呈した。
「最低限の課題はクリア」
試合後のベンチ前で組まれた円陣がすべてを物語っていた。森保一監督が発する言葉を聞く選手たちやコーチ陣の全員が、厳しい表情を浮かべている。まるで負けたチームと見間違えるような光景に、不完全燃焼の思いが色濃く反映されていた。 キャプテンのDF吉田麻也(33・サンプドリア)が全員の思いを代弁する。 「短い時間のなかで擦り合わせなければいけなかったのでやはりミスもあったし、もちろん上手くいかなかった部分もあった。そのなかで勝ち点3を取るのは最低限の課題だったので、それをクリアできたことでホッとしている部分はある」 吉田が言及したように、招集された28人全員で練習できたのは前日の一度だけ。オランダ発のチャーター便でハノイへ向かったヨーロッパ組の11人が、給油地ロシアで遅延トラブルに巻き込まれ、チーム合流が半日も遅れたハプニングが原因だった。
異例の状況下で注目された先発メンバーはしかし、右足を痛めている酒井宏樹(31・浦和レッズ)に代わって山根視来(27・川崎フロンターレ)が入った右サイドバックを除いて、劇的な勝利をあげた先月のオーストラリアとの第4戦と同じだった。 システムも[4-3-3]が継続されたなかで、遅延トラブルで狭い機内に10時間近くも閉じ込められた選手が、吉田や伊東に加えてDF冨安健洋(23・アーセナル)、MF守田英正(26・サンタ・クララ)、MF南野拓実(26・リバプール)と5人を数えた。 「この間がよかった、というのがあるのかなと。練習時間が少なすぎた分、前回のいいイメージをいじらない方がいいという判断だったんじゃないかと」 森保監督の意図を察した吉田は、ロシア国内で足止めを食らった時間を含めて、実に一日以上も要した移動時間が心身に与える影響をこう説明している。 「準備の部分では、もちろんいつもよりはハードだった。でも、乗り越えなければいけなかったし、起きたことをどうこう言ってもしょうがないと思ったので」 コンディションが万全ではなく、出場させれば不慮のアクシデントを招きかねない遅延組を、森保監督はリザーブに回すことも一時的に考えた。方針を変更させたきっかけは、現地時間9日深夜にハノイ市内のホテルへ到着した吉田らの表情だった。 「全員がすごくいい顔をしていて、疲労をほとんど感じさせなかった。機内に閉じ込められた状態で上手く気持ちを切り替えて睡眠と休養を取り、試合へ向けていいコミュニケーションを取ってくれていた。フィジカル的にもメンタル的にも先週末の試合からリカバリーできていて、トレーニングを一度することで十分にプレーできると判断した」 新たな武器となった[4-3-3]を、進化させたい心情は理解できる。ただ、予期せぬハプニングに見舞われても、選手は誰でも試合に出たいと望む。ブレーキをかけるのが指導者の役割のひとつなのに、森保監督はむしろアクセルを踏んだ。 しかも、U-24日本代表を率いて金メダル獲得を公言しながら、メダルなしの4位に終わった東京五輪から指摘されてきた悪しき采配をまたもや露呈させた。 それは実績と序列を重視した先発陣の固定化であり、同様の理由で途中出場する選手もDF中山雄太(24・ズヴォレ)、MF浅野拓磨(27・ボーフム)、FW古橋亨梧(26・セルティック)、MF柴崎岳(29・レガネス)までがオーストラリア戦と同じだった。