“自分が嫌”という言葉が何度も出てくる――インターネットで自殺を防ぐ研究の今 #今つらいあなたへ
セルフチェックリストで「抑うつ度」を知る
現状では、広告を見て相談メールを送るところにまで到達する人は0.03~0.25%だという(※6)。末木さんはその確率を何とか上げたいと思っていたが、ヒントになりそうなデータが最近出てきた。 東京都で、2022年10月から2023年1月にかけて行われた自殺対策に関する調査研究で、比較的症状の軽い人をすくい上げ、予防につなげられないかを調べたものである。末木さんも関わったこの調査では、前述した自殺関連用語を検索した人に広告を示すシステムを使用したところまでは従来どおりだが、新しい試みをした。 「広告を見てクリックした人にセルフチェックリストを用意したんです。カジュアルな感じで答えられて、“あなたのいまの抑うつレベルはこれぐらいです”みたいな形で、自分の状態を知ることができるようにしました。するとクリックした人の14.3~36.6%というかなり高い確率でセルフチェックをやってくれたんです(※7)。この結果から、チェックリストを広告に表示して答えてもらうようにすれば、もっとクリック率が上がり、相談にたどり着く人も多くなるのではないかと思いました。“あなたの抑うつ度はこれぐらい高い点数です。相談したほうがいいですよ”というふうに言ってもらったほうが、相談しようという気になるかもしれません」
末木さんは、「死にたい気持ちになる手前」でケアするための研究にも力を入れている。そのほうが回復が早いし、相談にあたる専門家を症状の重い人たちに振り分けられるからだ。 先ほど紹介した東京都の調査研究では、6つのグループに分けた。自殺の原因になりやすい妊産婦、DV、依存症、うつ、性的マイノリティ、虐待である。 「結果は期待が持てるものでした。例えば産後うつ病にかかる率は一般的には10~15%の幅で存在するのですが、この調査では、セルフチェックに回答した9割の人が産後うつ疑いの基準値を超えていました。他のDV、うつ、性的マイノリティ、虐待でも、今回のような広告の出し方で、産後うつ病と同じように、かなり高い割合で気分・不安障害と判定される人をすくい上げることができました。今後、少し状態の悪い人にしぼって、相談を促すことはできそうだなという見通しが立ちました」