“自分が嫌”という言葉が何度も出てくる――インターネットで自殺を防ぐ研究の今 #今つらいあなたへ
相談メールには“嫌”という漢字が頻出
相談者はまず、問診のような簡単な質問に答える。自殺念慮がどれぐらい強いのか、自殺の計画があるのか、自殺を試みた経験があるのか。心の健康状態をチェックする指標(K6)に関する質問もある。 実際の流れの例はこのようなものだ。(※3)。 「苦しみの少ない自殺方法」をネット検索した25歳男性のケース。 大学に入るがなじめず中退して以降、自宅にひきこもり状態に陥り、孤独感と無能感にさいなまれていた。昼夜逆転の生活、家族への申し訳なさがあり、自室から出られない。将来の展望も見いだせず、部屋にいると自殺のことを考えてしまう状態だった。 広告をクリックして相談すると、精神保健福祉士に心療内科の受診を勧められた。予約をし、受診すると気分が軽くなり、バイトに行けるようになるまで回復。その後もときどき自己否定的になることはあるが、立て直しができ、相談開始から8カ月後、就職先が決まった。 「すべてがこのようにスムーズにいくわけではありません。中には専門医を受診するのが怖いという人もいます。初めての経験ですから、誰でも多かれ少なかれ不安になるのは当然です。医師に何を話していいのか分からない人もいます。そういう場合には一緒に考えて、『こういうふうに話してみたら?』とか、『話す内容を書き出した紙を先生に渡すだけで大丈夫だから』といったところまで話を詰めてから受診してもらうこともあります」
相談者の8割は自殺念慮を持ち、4割は過去に自殺を試みていたことが分かっている(※4)。相談メールに使われている言葉の分析からは、自殺を考える人の心の中が垣間見えるという。 「“嫌”という漢字が頻出するんですよ(※5)。自殺リスクが比較的低い人のメールには、人の名前が出てくるんです。会社の上司が嫌だとか、友だちや親が嫌だとか。ところが自殺リスクが高まってくると人の気配が消えるんです。メールの中の登場人物は自分しかいなくなってしまい、“自分が嫌”という言葉が何度も出てくる。自殺の危険性を高める要素のひとつに、『負担感の知覚』があります。つまり自分は能力がなくて、会社や周囲の人たちに迷惑をかけてばかりいる、負担をかけている。そんな自分が嫌だというわけです。人の気配が消えて自殺念慮が強くなった人に必要なのは、気持ちを聞いたり相談に乗ったりできる人ですね。人が周りにいれば自殺リスクは下がると思うのです」