ポーランド映画の現在地<1>…最注目作集まるグディニア映画祭、境界超える作品目立つ
ベラルーシのルカシェンコ政権による弾圧を、あるジャーナリスト夫婦をめぐる実話に着想を得て描いた「アンダー・ザ・グレイスカイ(灰色の空の下で)」(マラ・タムコヴィッチ監督)の生々しさも印象に残った。監督は、ワルシャワで学んだポーランド系ベラルーシ人だという。
枠にはめられないのがポーランド映画なのか、とも思う。
「僕は映画を使うことができる」
「アンダー・ザ・ボルケーノ」のコツル監督は、映画祭の記者会見でこう語っていた。「アイデアが生まれたのは、2022年3月。『戦争』が勃発し、何かをしなければならないと感じた。リビウの人々を車で避難させた友達もいた。自分にはそういう勇気はなかったけれど、心に決めた。僕は映画を使うことができるのだと」
また、同作が家族の物語を通して戦争を描いたことについて、父親役のウクライナ人俳優、ロマン・ルツキーは次のように発言した。「この作品は、『戦争は遠く離れたところで起きていて、自分たちには影響しない』と考えている人々がいる国々に届けるべき作品です。影響は誰もがすでに受けている。戦争は最前線だけでなく『すぐそば』で起きているということにそっと気づかせてくれるから」
彼らの言葉は、ポーランド映画のみならず、映画の力とは何かを改めて考える上で大切な手がかりのように思えた。
最高賞は
コンペティション最高賞のゴールデンライオン賞に輝いたのは、ベテランのアグニェシュカ・ホランド監督による「人間の境界」だった。「ベラルーシ経由でポーランド国境を越えれば、安全にヨーロッパに入れる」という情報を信じた移民たちが直面した悲惨な状況を描いた映画。ベラルーシのみならずポーランド当局の問題にも迫っている。
実は、この作品は、昨年のベネチア国際映画祭で発表され審査員特別賞を受賞したが、グディニアには出ていなかった。その経緯は不明だが、公開当時のポーランド右派政権は同作を激しく非難していた。作品そのものは圧倒的に素晴らしい。改めて賞を贈ったのは英断と言えるだろう。