ポーランド映画の現在地<1>…最注目作集まるグディニア映画祭、境界超える作品目立つ
オープニングのセレモニーと上映には絶対に行きたかったのに、予約開始とほぼ同時に席がなくなった。オープニング作品「アンダー・ザ・ボルケーノ(火山の下で)」(ダミアン・コツル監督)は、映画祭開幕の少し前に、次の米国アカデミー賞国際長編映画賞ポーランド代表に選ばれた注目作。何度も再上映はあるものの開幕式の様子が見たかった……と、会場前広場のベンチでしばしたそがれてしまったが、上映はわんさとある。とにかく、見られる時に見られる作品を見るべし、見るべし、見るべし、と、まず3本立て続けに見た。
そして、3本目に見た「ザ・ガール・ウィズ・ザ・ニードル(針を持つ若い女)」(マグヌス・フォン・ホーン監督)が、がつんと来た。舞台は、第一次世界大戦後のデンマーク・コペンハーゲン。主人公は、工場で働く若い女。夫は戦地から帰って来ず困窮、工場主のお坊ちゃんの子どもを妊娠するが捨てられる。そして出会ったのが闇で養子あっせんをしているという女。主人公はその女を頼るが……。実際に起きた犯罪をもとにしたストーリー、混とんの中で生きる主人公を鮮烈にとらえるモノクロームの映像。並外れた強度の表現で人間のありようを凝視させる作品だった。
フォン・ホーン監督はスウェーデン出身だが、ウッチ映画大学卒業生で20年近くポーランドに住んでいる。本作はデンマークとポーランド、スウェーデンの共同製作で、今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された。アカデミー賞長編映画賞のデンマーク代表作品にも選ばれている。国の枠を超えている。さらに何本かコンペ作品を見たが、最も強烈なインパクトを感じたのは、この「ザ・ガール・ウィズ・ザ・ニードル」だった。
国の枠にとらわれない題材、人的構成
今年のグディニアのコンペティション部門では、ほかにも、国の枠にとらわれない題材、人的構成の作品が目立ち、ポーランドと国境を接するウクライナをめぐる作品も3作品あった。開幕作品「アンダー・ザ・ボルケーノ」も、そうだ。あるウクライナ人家族がスペイン・カナリア諸島でバカンスを楽しんでいたところ、ロシアによるウクライナ侵略が勃発。突然、観光客から難民となった親子それぞれの葛藤が描かれていく。監督のコツルは前作「パンと塩」で注目を集めたポーランドの俊英で、主要キャストはウクライナ人だ。