家賃滞納、電気と水道も止められ…倒産寸前だった老舗和菓子店 売り上げ4倍へ導いた逆転劇とは?
91年の歴史と味を守りながら地域社会との結びつきを大切に
前店主はその後しばらくして店を退職し、「くるみ餅」のつくり方は中村さんが引き継いでいる。 「くるみ餅は創業以来91年の味と歴史を壊さないように、味や形を引き継ぐのが大変でした」 レシピが明文化されていなかったため、中村さんをはじめスタッフが総出で前店主の動きを観察したり、以前アルバイトで働いたことがある前店主の甥がサポートしてくれたりして、およそ半年をかけて「くるみ餅」のつくり方を習得したという。今では製造法をレシピに整理して、作り手が代わっても一定レベルの品質を保てるようにしたそうだ。 経営を引き継いだ後は厨房の設備を一新し、黒くすすけていた壁紙も貼り替えた。店のたたずまいも明るくなり、清潔感が溢れる、おしゃれな和菓子屋に生まれ変わった。 今は主にInstagramでの情報発信に注力し、商品の紹介やキャンペーンに活用している。その結果、若いお客さんも来店するようになったという。 「以前は60歳以上のお客様が多かったのですが、最近は若い女性の方も増えています。毎日のように『インスタを見てるよ』とおっしゃるお客様が来られますし、これからもお客様とのコミュニケーションツールであるInstagramを発信し続けたいと思います」 偶然の出会いから、倒産しかけている和菓子屋の立て直しを手掛けることになり、独自の発想と工夫で経営をV字回復させた中村さん。 「はじめは自転車操業で大変でしたが、不思議なことに、この仕事を辞めたいとは思わなかったんです。心から、この地域の役に立てたら嬉しいと考えています」 中村さんが初めて「ぽんぽんや」を訪れた頃から比べて、現在の年間売り上げは4倍になり、さらに伸び続けている。地域のイベントにも積極的に参加したり、子ども食堂へかしわ餅やどら焼きなどを寄付したりして、地域社会への貢献や結びつきの強化にも努めているという。 2023年には泉大津市の青年会議所と協力して、地元の新しい名物として「アンデクルンデ」を開発した。 最後に、経営者としての課題を尋ねた。 「短期的な利益だけでなく長期的な事業の成長を見据えた意思決定も求められるので、適切、迅速な意思決定ができるよう日頃からアンテナを張りめぐらせています」 今後は、消費期限がわずか1日だという「くるみ餅」を全国へ届けられるように、冷凍で販売する準備を進めているそうだ。また、その「くるみ餅」を地元の人がいつでも買えるように、冷凍販売できる自動販売機も発注した。こちらは11月から販売できる予定だ。 (まいどなニュース特約・平藤 清刀)
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