自販機にピースサイン 、体調不良は「ばい菌の仕業」…死刑判決から半世紀超、記者が見た袴田さんの拘禁症状 無罪確定後は変化を感じさせる言葉も。釈放から10年、姉と2人暮らしの日常
やはり伝わらなかったのか。そう感じていた周囲を驚かせる出来事が、判決の3日後、静岡市で開かれた報告集会であった。車いすで登壇した袴田さんは「待ち切れない言葉でありましたが」と切り出し「無罪勝利が完全に実りました」と語った。検察側は控訴を断念し、10月9日に無罪判決が確定。この5日後の会合では、再び「私もやっと完全な無罪が実りました」と話した。 「意思疎通が難しいことに変化はないが、最近は生き生きしているように見える」とひで子さん。町で会う人から袴田さんに掛けられる言葉は「がんばってね」から「おめでとう」に変わった。昼食を共にするなど姉弟に寄り添う支援者の猪野待子さんは「緊迫感が緩んできている」と感じている。その後、県警本部長や地検検事正が袴田さんに直接謝罪。選挙権が戻り、衆院選の期日前投票もした。 名実ともに一般市民に戻ったものの、妄想を脱する日が来るのかどうかは見通せない。回復とひで子さんとの穏やかな暮らしが一日も長く続くことを願い、取材を続けたい。