「僕がピッチに立って勝ったのって…」ジュビロ磐田、中村駿が噛み締めた「幸せ」。何もできなかった苦悩を経て【コラム】
⚫️「それがあっての僕たちのサッカー」
ようやくチーム練習に本格復帰してきた7月終わりに話を聞いてみると、中村は「色々考えましたけど、サッカーをやれるって幸せだなと思うし、あのピッチに立てるというのはもっと幸せだと思う。それがあっての僕たちのサッカー」と語ってくれた。そして「今チームは必死にもがくだけ。その力になりたい」と力強く主張していたことが思い出される。 就任1年目で磐田をJ1昇格に導いた横内昭展監督は最終ラインからボールを動かして、相手を押し込む時間帯をできるだけ多くしたいと考えていた。しかし、プレーの強度が高く、クオリティでもハイレベルなJ1を相手に、そうそう理想的なサッカーをやり切ることはできない。その中で頼りになるのはここまで15得点のジャーメイン良と大型FWマテウス・ペイショット、夏にセレッソ大阪から期限付き移籍をしてきた渡邉りょうというFW陣だ。柏戦の2トップはジャーメインと渡邉だった。 降格圏で残り10試合を迎えたところから巻き返していくには、チームの戦力や現状に応じて、勝利のために戦い方を最適化していく必要がある。3週間という中断期間を挟み、8月25日の北海道コンサドーレ札幌戦から復帰2試合目となった中村は相棒のレオ・ゴメスと中盤の守備をシェアしながら、攻撃では中盤の深め、あるいはセンターバックの傍に落ちたところからシンプルな展開で、2トップを生かすチャンスの起点になった。 その中で、前半にあげた2得点に共通するのは攻撃の流れを切らずにやり切ることだ。渡邉をアシストした1点目。中村が蹴ったCKのクリアボールを右サイドで高畑奎汰が拾うと、サイドライン際でパスを受けた中村が素早くクロスボールを入れる。そこに渡邉がストライカーらしく、ダイビングヘッドで合わせた。
⚫️得意なプレーを出せた「自分の前にスペースがあったし…」
中村によると誰かが飛び込んでくれると信じて、ディフェンスとGKの間に上げたようだが、移籍初ゴールとなった渡邉は「点取れる場所はもうあそこしかない。そこに上手く、ニアにタイミングよく走ることができたので。いいボールをくれた駿くんに感謝したい」と語った。 中村が決めた2点目はレオ・ゴメスの展開を起点に、左でボールを運んだ松原のクロスが右ワイドの松本に通ると、中村がタイミングよく中央を飛び出す。俊足の小屋松知哉がプレスバックしてきたが、一瞬早くパスを受けた中村が渡邉に縦パスを付けて、右側から追い越してボールを受けると、左足でGK松本健太を破った。 中村の動きについて渡邉は「駿くんは縦パスを差して前に来てくれる選手なので。そこで自分がボールを失わずに繋ぐことができれば、チャンスになるというのは練習からあった」と振り返る。 「駿くんがそのまま前に出てきてくれて。いいところに走ってくれたので。上手くいいところに落とせて、しっかり決めてくれたなと思います」 そう渡邉が語るように、こうした形からフィニッシュに持ち込むのは本来、中村の得意なプレーだという。ただ、磐田では怪我での離脱期間が長引き、なかなかそれをピッチで出せていなかった。中村は「自分の前にスペースがあったし、ひとつ運んだところで(渡邉)りょうが見えて。預けたらもう1回返ってくるかなと。ちょっとごちゃごちゃってなったんですけど、自分のところに来て。あとはキーパーと1対1になったので、流し込むだけでした」と語る。 ただ、同じような状況で、このシーン以外にも「あそこにこぼれてきたシーンはあった」と認める中村は「そこで自分がクオリティを出せれば、もうちょっと点にも近いプレーができたのかな」と反省を口にした。しかし、前半のうちに2-0とリードしたところから、いかに勝ち切るかというのは磐田のテーマでもある。前半の終盤には柏に点が入ってもおかしくないシーンが何度かあり、GK川島永嗣を中心に何とか耐えて後半を迎えた。