日銀マイナス金利 効果はあるが“短期的な劇薬”
日銀が「マイナス金利」を導入しました。インフレ率(物価上昇)目標2%を達成する狙いとされていますが、日本経済の活性化にどのような影響や効果があるのか。マクロ経済が専門の岡山大学経済学部准教授・釣雅雄氏に寄稿してもらいました。 【写真】日銀がマイナス金利を決定、ただし適用するのはごく一部だけ
異次元緩和「第二ステージ」
日本銀行は、1月29日の金融政策決定会合で「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定しました。金融機関が日本銀行に保有する預金(日銀当座預金)にマイナス0.1%の金利を付けるというものです。 賛成が5名、反対が4名と、わずか1名差で決まった導入です。 おおまかな仕組みは、現在の当座預金残高に相当する額には従来通りに+0.1%の金利が付き、それを上回る分(当座預金を3段階の階層構造に分ける)についてマイナス金利が適用されるというものです。当座預金の全額につくわけではありません。簡単にいうと、増えた分のみにマイナス金利が付く仕組みです。 現在の日銀当座預金残高にはマイナス金利がつかないので効果はあまりなさそうにも思えますが、日銀は、金融取引は限界的な損益によって決まるので、増額分のみへの適用であっても効果が生じると説明しています。 私は現在の量的・質的金融緩和と組み合わせたマイナス金利は、為替レートのみならず民間投資への効果もあるのではないかと予想します。しかし、それは劇薬で、長くは続けられないはずです。日本経済は、国内については景気が悪いとはいえません。原油安はインフレ率を下げているかもしれませんが、日本経済には追い風です。そのため、仮に効果が出るのだとしても、現在の経済状況では必要なかったのではないかと考えています。 また、インフレ率への効果は不明です。最近は、景気と物価の連動が弱く、消費税増税前の駆け込み需要の時でも、それほどインフレとはなりませんでした。今回の政策のみで2%のインフレ目標を達成するのは難しいと考えます。 さて、日銀はマネタリーベース(現金通貨と日銀当座預金残高の合計) を年間約80兆円増加させるペースの金融緩和を行っています。単純に、この80兆円にマイナス0.1%の金利が付くと考えると、金融機関は年に800億円を「支払う」ことになってしまいます。これでは収益を圧迫するので、資金はきっと動くはずです。これまで、資金需要(貸出先)がないという状況が続いてきましたが、金融機関は何とか貸出先を探さなければいけません。 (なお、金融機関が日銀当座預金を現金化して〔現金なら金利は付かないため〕マイナス金利を避けようとしても、その現金額に相当するマイナス金利が日銀当座預金に付く仕組みになっています。現金化のみでは、金融機関はマイナス金利から逃れることはできません )。 すでに欧州中央銀行(ECB)もマイナス金利(手数料0.3%)と量的緩和(月額600億ユーロ=約8兆円弱)を行っていて、効果はあまり出ていないと思うかもしれません。しかしながら、量的緩和の規模はそれほど日本と違わないのに対して、EUの経済規模(名目GDP)は日本の4倍に迫ります。日本の量的緩和は、経済規模から考えると、まさに大胆なものになっています。(2014年のEU28か国の名目GDPはおよそ14兆ユーロ(1850兆円)。ただし、EUには通貨がポンドである英国を含む。日本は約487兆円なので3.8倍) 現状では、金利と量を掛け合わせた場合の額は欧州中央銀行と同等ですが、日本は量的緩和の規模が大きいという点がポイントとなるはずです。今後、マイナス金利がさらに引き下げられる可能性もあることを踏まえると、金融機関の資金運用行動に一定の影響を与えるのではないでしょうか。