空前のメダカブーム 飼育歴30年、第一人者が語る「メダカの魅力」
近年、問題になっている盗難被害
その一方、近年問題になっているのが盗難だ。 「うちも一度で70万円くらいの被害を受けました。夜中に車でやってきて水槽からメダカを盗む手口です。おそらく転売目的でしょう」 盗難届を出しても実際に犯人を捕まえるのは困難だという。その理由は個体の証明ができないからだ。転売されているのを見つけ「これはうちのメダカです」と言っても、警察はそれを同定するすべがないのだ。それゆえ自衛するしかない。 「防犯カメラを5台置いてから減りましたね。侵入者と車のナンバーが特定できれば捕まえられますから」
東京都内にも専門店やメダカを取り扱う店が増えてメダカブームが過熱する一方で、戸松は新たな心配をしている。SNSやフリマサイトで、明らかに個人であろう販売者が見受けられることだ。メダカの販売に免許はなく、誰でも参入できる。それがメダカ市場が拡大した一因でもあるのだが、こう呼びかける。 「相談できるスタッフがいて、アフターケアがしっかりしているところで買ったほうがいいでしょう」
メダカと最後まで暮らす意味
また、ブームはやがて衰退する可能性もある。そのとき、野生に放流したりする人が現れないかも危惧している。 「改良されたメダカは強い。絶滅危惧種である在来種のメダカを駆逐してしまう危険があります。悪気はなくても、絶対に放流してはいけません。愛を持って最後まで一緒にいてくれたらメダカも喜ぶと思うんです」 そう語る戸松の目はどこまでも優しい。根本にあるのは美しいメダカを生み出したいというシンプルな欲求だ。 「人の感覚はそれぞれだけど、絶対的な美しさというのは揺るがないと思うんです。そんなメダカを作りたい」 しばらく飼育しているとメダカは人間に懐くという。人間が水槽に近づくだけで「ごはんちょうだい」と水面まで浮かんでくる。不思議なもので、野生のメダカは何世代飼育しても懐かないのだとか。 「人間と共に暮らしてきたメダカだから、いとおしく思うんでしょうね。でも、簡単に人間の思うようにはならない。私がやっているのはメダカの持つ個性を伸ばすこと。お手頃な価格でも高価なものでも奥深さは変わらない。私は日々メダカに教わっているんです」 --- プロフィール 戸松具視 1978年、埼玉県生まれ。埼玉県日高市にある改良メダカと園芸の専門店「花小屋」店主。日本メダカ協同組合理事長。トップブリーダーの一人としてメディアへの露出も多く、品評会なども定期的に開催。メダカへの深い愛情と知識に多くのメダカ愛好家が信頼を寄せている。 キンマサタカ 1977年9月4日生まれ。大学卒業後にサブカル系出版社に入社し、書籍編集から営業まで幅広く担当する。2015年に編集者として独立。株式会社パンダ舎を設立し、多くの書籍を手がける。ライター・写真家としても活躍し、岩井ジョニ男のインスタをプロデュースしたことで話題に。著書に『だってぼくには嵐がいるから』、編集した本に『どのみちぺっこり』(飯尾和樹著)など。