空前のメダカブーム 飼育歴30年、第一人者が語る「メダカの魅力」
固定化の難しさ
それまでなんとなく飼育していた戸松は、メダカと真摯に向き合うようになった。あらためて購入したダルマメダカを大事に育てあげ、ついに孵化と固定化に成功した。
メダカ飼育でよく使われる「固定化」とは、例えばダルマメダカが持つ「だるま体型」という特徴が次世代に必ず遺伝されることを指す。突然、これまでと違う特徴を持つ個体が生まれることはよくあるが、現在では30%以上の確率で次世代に引き継がれない限り固定化が成功したとはいえない。 「ダルマメダカについて愛好家仲間と情報交換を続けました。夏になるとダルマがよく出るという統計から水温は常に高くする。えさをたくさん食べる親からの出現確率が高いため、食事は豊富に与える。そうやって経験と推理を重ね、ようやく固定化に成功したんです」 ヒメダカやダルマメダカのような突然変異のメダカはどこでも生まれる可能性がある。だが、どんなタイミングで生まれるかは誰にもわからず、偶然出たもの同士を掛け合わせて、いかにその特徴を固定化するかが鍵となる。ただしそれは困難な作業で、早くても3年から5年はかかるという。 そうして生まれた珍しい個体を店で販売すると話題になっていった。手間を考えると決して割の良い仕事とはいえないが、戸松は新しいメダカを生み出す面白さに取りつかれていた。
メダカ市場の変遷
戸松がメダカを扱うようになった20年ほど前は、メダカマーケットは国内に数えるほどしか存在しなかった。熱帯魚ブームの頃もマニアがメダカに興味を持つことはほとんどなかったという。 「メダカを飼育している人は、熱帯魚未経験者が多かったと思います」 水槽や温度管理などお金も手間もかかる熱帯魚に比べてハードルが低いため、誰でも参加できる気軽さがある。戸松をはじめとする愛好家たちの手によって生まれた改良メダカが話題になると、ゆっくりとマーケットは拡大していった。戸松はブーム拡大の二つの大きな潮目を感じたという。 「一つは東日本大震災。地震で室内の水槽が割れてしまった熱帯魚愛好家たちは、庭やベランダなどで手軽に飼育できるメダカに注目しました。そしてこのコロナ禍。自宅で過ごす時間が長くなり、癒やしを求める人が増えたのだと思います」 専用器具や厳密な環境管理も必要なく、メダカを購入したその日から飼育できる手軽さも後押しした。戸松の店は15年前から売り上げが右肩上がりだ。特にここ1年は顕著な伸びを感じるという。 「錦鯉のような海外からの買い付けはほとんどありませんが、そのぶん不用意な高騰も起こらず、ファンが離れません。野生のメダカが絶滅危惧II類に指定されていることも注目を集めた一つの要因だと思います」