空前のメダカブーム 飼育歴30年、第一人者が語る「メダカの魅力」
いまメダカブームがきているという。自宅内のわずかなスペースで手軽に飼育できることから、コロナ禍で需要が増えた。ホームセンターなどで安価で売られているものもあれば、高い個体は1匹10万円をくだらない。なぜ人は高級メダカに熱狂するのか。メダカブームを牽引する改良の第一人者に話を聞いた。(取材・文:キンマサタカ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
コロナ禍で空前のブームに
花が並ぶ軒先を抜けてビニールハウスに入ると、1メートル四方の水槽が100以上並んでいる。泳ぐメダカの数は数万匹。種類は数十種にも及ぶ。 値段は10匹千円から1匹10万円までさまざまだ。色も体形も違うメダカが勢ぞろいしている。戸松具視(とまつともみ・43)が埼玉県日高市で園芸とメダカを扱う店 「花小屋」をオープンしたのは19年前のことだ。
「花小屋という店名の通り、最初は花を中心に販売していました。睡蓮とセットでメダカを販売していた程度ですが、現在はメダカが売り上げの大半を占めます」 最寄り駅から徒歩30分。バスも走っていない。お世辞にもアクセスが良いとはいえない店には、午前10時のオープンと同時にメダカ愛好家が訪れる。珍しいメダカが入荷していないかをひと通りチェックしたのち、戸松とのメダカ談議に花を咲かせる。 メダカ歴3年という常連の一人はこう語る。 「ここで使ったのはこれまで100万円くらい。唯一と言っていい趣味なので家族は黙認してくれます。ここに来れば新しいメダカに出会える。それを種親にして新しいメダカを作り出すのが楽しみなんです」
メダカとの出会い
「小学校5年の理科の授業で飼育したメダカを自宅に持ち帰ったら、どんどん増えてしまったんです」と戸松は振り返る。最初に飼育したのは白メダカとヒメダカだった。もともと生き物が好きだったこともあり、えさやりと掃除を熱心にして快適な環境を整えた。メダカは産卵を続け、夏が終わる頃には水鉢が三つになっていたという。 「おねだりして、当時は珍しかった青メダカを買ってもらったこともありました。あの頃は朝から晩までメダカの世話に明け暮れていましたね」 その後、18歳で建設関連会社に就職したものの、バブル崩壊の余波で数年後には仕事が半減。どうせならと空き地で始めた花屋が波に乗り、メダカの販売も始めるようになった。 そんなある日、遊びに訪れた知人の家の水槽にいたメダカに目を奪われた。 丸々とした体形、愛くるしいその泳ぎ方。「ダルマメダカ」だった。今でこそメジャーな品種だが、当時は市場にほとんど出回っておらず、1匹数万円で取引されていた。 「メダカは細長くすばしっこいもの、というそれまでの概念を根本からひっくり返されましたね。『本当は金魚の子供でしょう?』って何度も聞いたくらい信じられなかった。すぐに友人がメダカを買ったという店に走りました」 オスとメスのワンペア5万円は大きな出費だったが、自宅に持ち帰って大事に育てた。しかし、すぐに弱り死んでしまったという。納得のいかない戸松がショップに苦情を言いにいくと、その原因がわかった。 「大事に思うあまり過保護に育ててしまったんです。メダカの成育には太陽の光が欠かせないこともこのとき初めて知りました」 メダカが死んでしまった原因はおそらく日照時間が足りなかったこと。それまでは外で飼育していたが、大切に思うあまり室内に水槽を置いたため、日光が当たらなくなり、ビタミンA、Dが欠乏して病気になったと考えられた。