「自分が幸せかどうかを見つめて」──トランス女性として活躍するプロデューサーから、次世代へのメッセージ #性のギモン
「おしゃれな男性だと思っていた」 先輩の言葉で向き合った「絶望」と「希望」
谷生さんからすると、「おしゃれな男性だと思っていた」という鈴木さんの反応は、「なるほど」という腹落ち感があったという。 「トランスしたいという気持ちはあっても、どこかでブレーキをかけていたんですよね。そんなときに啓子さんが『加速したほうがいいわよ』と言ってくれて。そうか、と思って」 「私個人の考えだと思って聞いてくださいね」と念押しした上でこう続ける。 「トランスジェンダー女性として書いたりしゃべったりしながらこんなことを言うのは矛盾しているかもしれないのですが、個人的には、私みたいな存在は『絶望的』だな、と思っているんです。だって、どうやっても本物の女性にはなれないんです。DNAは変えられないから。たとえ女性にしか見えない外見になって外科的処置を施し、戸籍の性別まで変えたとしても、完全には変わらない。この意味において、われわれは絶対に実現しないことを努力し続けるんですよ。なぜメイクするかといえば、女性性という記号を身につけたいからです。女性として認識されたいからです。でも女性にはなれない。だから『絶望的』。だけど、自認する性を表現し、1ミリでも近づこうと、あらゆる努力をすることはできる。そこに希望は、あるんじゃないかな、とも思うのです」
そんな思いを知った鈴木さんは、谷生さんが女性名で仕事ができるように人事に掛け合い、それが認められなかったときは自分のことのように憤った。スカートデビューのタイミングを考えたり、自然なメイクに見えるようにアドバイスしたりもした。「妹ができたようで楽しかった」と振り返る。 「ターニャの人生の役に立ちたいと思ったんですよね。私もいろんな面でターニャに助けられたから。仕事やプライベートで大変なことがあっても、ターニャと話して何度も背中を押してもらい、前に進めました。それに、ターニャの強さも賢さも知っていましたから。 今もLGBTQに限らずいろんな悩みを抱えている人が職場にはたくさんいると思いますが、私から言えることは、『敵もいるけど、味方もいっぱいいるよ』ということです。何があっても淡々と受け止めて、自分の行動や発言で変えていくしかない。自分らしくあることに恐れないでほしい」