「自分が幸せかどうかを見つめて」──トランス女性として活躍するプロデューサーから、次世代へのメッセージ #性のギモン
「会社をクビになってはいけない」 在職トランスする当事者が抱える不安
会社勤めを続けながら性別移行することを、当事者は「在職トランス」と呼ぶ。現在の日本テレビは、同性パートナー制度を導入したり、多様性をテーマにした番組やイベントを独自に企画したりするなど、LGBTQに関する取り組みが進んでいる。しかし当時は前例がなく、「女性として生きたい」と口に出せる雰囲気ではなかった。 「まず思ったのは、クビになってはいけないということですね。あなたを女性として雇ったんじゃないとか、偉い人の鶴の一声でクビにされるとか、全然ありえると思いました」 そのころ、クリニックを受診して、性同一性障害の診断を受けた。自分が性別不合であることを疑ってはいなかったが、社内で問題になったときに「きちんとガイドラインに沿って行動している」と説明できるようにするために、診断が必要だった。 谷生さんは、編成局の先輩の鈴木啓子(ひろこ)さんに、自分の気持ちを聞いてもらうことにした。鈴木さんは現在、動画配信サービスHuluを運営するHJホールディングスで取締役を務める。鈴木さんには、当時の谷生さんがどう見えていたのか。
「前提として、ターニャ(谷生さんの愛称)のことは新入社員のころから知っていて、大好きな後輩の一人なんです。いつも目がきらきらと輝いていて、前向きで。ただ、そういう思いを抱えているとは、まったく気づいていませんでした」 谷生さんに「話したいことがある」と声をかけられ、いつものように食事に出かけたある日、「女性」として生きていきたい気持ちがある、と告白される。意外だったが、うろたえはしなかった。 「そんなに大事なことを話してくれてありがとう、と思い、そう伝えました。大切にしている後輩にとって、自分がそういう存在であるということが、まずうれしかった。当時のターニャに対する私の理解は、ヨーロッパナイズされたおしゃれな男性というもの。フェミニンさはありましたけど、パンツスタイルで髪も短髪でしたし、本人に女性の自覚があるとは思っていなかったんです。ところが、話を聞いてみたらそうじゃなかった。なんだ、女の子なのね、と。だったら、ほんとになりたい自分に絶対なろうね、と思いました。会社に理解してもらうために、こことここに話を通そう、そのあと人事に相談だな、というようにクリアすべきロードマップとアクションを具体的に思い浮かべました」