「自分が幸せかどうかを見つめて」──トランス女性として活躍するプロデューサーから、次世代へのメッセージ #性のギモン
テロの現場で見たむき出しの生と死 「後悔しないように生きる」
トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別とは異なる性別にアイデンティティーを持つ人のことをいう。どのようなプロセスをたどって性別移行するかは人それぞれで、身体的、社会的、法的にどのようなゴールに落ち着くか、当事者自身も探りながら生きているケースは多い。 谷生さんの場合、子どものころから「女の子になりたい」という願望を抱いていた。谷生さんの著書によれば、寝る前に毎晩、女の子になった自分を夢想していたという。高校時代はテレビで「ミスターレディ」が脚光を浴びていた。「自由になりたい」という気持ちが、実家のある神戸を離れて東京の大学に進学する動機の一つになった。 大学院を出たあと、2000年に日本テレビに入社。報道局に配属、社会部を経て外報部で中東特派員となり、31歳から5年間カイロ支局長を務めた。各地で起こる爆弾テロや反体制派のデモ、さらには2度の戦争など、最前線からリポートした。 「(テロで)殺された人たちの靴や服の残骸、肉片のようなものも目にしました。そこから中継してくれと言われるんです。むき出しの生と、むき出しの死があった。そうすると、嫌でも自分の人生について考えるんです。支局といっても日本人は私一人ですから、自分と向き合う時間はたっぷりとある。これからの人生を考えたときに、『おっさんには死んでもなりたくない』と思ったんですね。心の奥底にずっと積み重なっていた『女の子になりたい』という思いが、わーっと出てきたんです」 「後悔のないように生きる」と心に決めて帰国。平日は男性の装いを大きく逸脱せず、週末に女性スタイルを楽しむようになる。38歳の夏、編成局へ異動。テレビで顔出しする必要がなくなった。 「報道局を出たことによって“たががはずれた”のは事実です。ネイルをもっと派手にするとか、薄めのアイシャドーで止めていたのをもうちょっと濃くするとか。ただ、じゃあどういうふうになっていきたいかというと、はっきりと分かっているわけではないんですよ。どこにたどりつくかなんて分からなかったんです」