『ガールズ&パンツァー』でも話題の「クリスティー式サスペンション」を発明した天才エンジニアが辿った苦難の道! 戦車開発がブレイクスルー
2023年10月の上映から大きな話題を呼んだ『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話。にて、継続高校のフラッグ車として活躍するのがフィンランド製の自走砲BT-42突撃砲だ。この戦車に採用された「クリスティー式サスペンション」は、優れた悪路走破性に加え被弾による損傷にも強く、履帯を外した状態で車輪走行が可能という特徴を持つ。前回はこの戦車用サスペンションを発明したアメリカの自動車技術者ジョン・W・クリスティーの前半生を、彼の開発した「ダイレクト・ドライブ方式」FWD自動車とともに紹介した。今回はその続きとして、レース活動を縮小し、自動車ビジネスを断念したあとの彼の人生を見て行くことにしよう。 【画像】戦車だけじゃない! ジョン・W・クリスティーが開発した兵器は……
航空機用エンジンを手掛けるも短期間で撤退
ジョン・W・クリスティー(1865年5月6日生~1944年1月11日没) 少年時代に鉄工所で働きながらクーパー・ユニオン(※)で工学を学び、軍艦の砲旋回装置の特許取得によって名声を得、潜水艦の研究、FWD自動車や軍用車両の開発で多大な功績を残した。レーサーとしてアメリカの国内レースやフランスGPにも参加している。写真は1904年に自身が開発したFWD1号車のステアリングを握るクリスティー。 ※クーパー・ユニオンについては以下バックナンバーを参照 モータースポーツ活動を縮小したクリスティーが、次に取り組んだのが航空機用エンジンだった。1910年に彼はニューヨーク・ヘラルド紙の社主であり、実業家であるゴードン・ベネットJrが主催する「ゴードン・ベネット・カップ」(第一次世界大戦の中断期間を挟んで1909~1920年に開催された航空機によるレース。同名の自動車レースや気球レースもあるので混同しないように注意が必要)への参加を目論み、彼はわずか1年という短期間で最高出力110hpを発揮する斬新なV型8気筒SOHCの航空機用エンジンを開発している。 このエンジンをカーチスに模した複葉機にタンデムで搭載し、航空のパイオニアであるチャールズ・K・ハミルトンが搭乗することになっていた。ところが、レース開始直前にエンジントラブルが生じ、残念ながら彼の飛行機は離陸することなく欠場を余儀なくされる。 不思議なことにあれほど新技術の開発に情熱を燃やし、何度失敗しても不屈の精神で諦めることなく挑戦を続けてきたクリスティーだが、こと航空機用エンジンからはこの一件ですっぱり諦めて早々と撤退を決めてしまう。 ライト兄弟による世界初の有人動力飛行からわずか7年。飛行機はいまだ海のものとも山のものともつかぬ物であり、将来の可能性はともかくとして、この時点では商業利用も軍事利用も夢物語に過ぎず、見せ物の粋を超えることはなかった。そのような状況では大金を叩いて航空機用エンジンを開発しても、とても採算ベースに乗るようなものではなく、すでに自動車ビジネスで失敗していたクリスティーには、いかに技術的な関心が高くとも、おそらくはこれ以上開発を続けるだけの資金的な余力がなかったのだろう。