『ガールズ&パンツァー』でも話題の「クリスティー式サスペンション」を発明した天才エンジニアが辿った苦難の道! 戦車開発がブレイクスルー
クリスティーサスペンションを初採用した革新的な快速戦車M1928で再び陸軍の正式採用を狙う
GC-2が米海兵隊に一応の採用を見たことで会社の経営が持ち直すと、クリスティーは再び陸軍向けの戦車開発に取り組むようになる。M1919およびM1921の失敗からサスペンションの重要性を痛感したクリスティーは、クロスカントリー能力だけでなく、乗員の疲労を軽減する乗り心地にも留意するようになる。 こうして5年の歳月と38万2000ドル(現在の貨幣価値で655万ドル。現在の邦貨換算で9億6200万円)もの開発費用を投じて試作戦車M1928を製作するのであった。 この戦車には車体側面の四対の大型転輪を懸架するために、車体と装甲板の二重構造で収納したクリスティー式サスペンションを採用していた。このサスペンションはクリスティーが「スーパースプリング」と名付けたストロークの大きなコイルスプリングによる独立懸架方式が用いられていたのだ。これにより従来のリーフスプリングを使ったサスペンションに比べて路外機動性に優れ、M1919で問題となった乗り心地も大幅に改善したのである。 さらにクリスティーはM1919で試みた「コンバーチブルドライブ」をより技術的に精錬させた上で再び採用した。 そのメカニズムは車体後部の駆動輪と第4転輪をチェーンで繋ぎ、第1転輪に転舵機構を組み込んだことで、履帯を外した状態で路上走行を可能にしたのだ。この戦車の心臓部には338hpを発揮する航空機用リバティL-12エンジンを搭載していた。さらに車体を8t代という軽量に仕上げたことから装軌走行時の最高速度は68km/h、舗装路を装輪走行した際には110km/hの高速で駆け抜けた。これは当時の戦車の速度性能を遥かに上回るものであり、現在のMBT (主力戦車)に匹敵するか、場合によってはそれを上回る数値である。 ただし、この戦車の装甲圧は最大でも12mmと機関銃弾程度にしか耐えられず、旋回砲塔もなく、武装は機関銃が2丁のみと当時の水準で見ても貧弱であった。 この戦車に絶大な自信を持っていたクリスティーは「1940年代でも通用する性能」との意味を込めて非公式ながらM1940と呼んでいたほどだ。