再び“入院”する少年・少女を減らしたい――非行少年の人生を変える、少年院出院後の学習支援事業とは #こどもをまもる
非行少年の更生には「環境が必要」 民間企業が支援する理由とは
では受託した民間事業者の思惑はなんだろうか。今回の事業を受託した公文教育研究会は、かつて認知症予防・改善分野での学習療法の効果を実証するSIB調査事業に参加した経験がある。同社ライセンス事業推進部調査企画チームリーダーの鈴木麻里子さんはこう言う。 「今回の再犯防止での学習支援でも、公文の学習効果を示して社会的便益があることを示せれば、公文式学習法がより広く使われるのではないか、という期待があります」 とはいえ、「社内では相当、葛藤がありました」と鈴木さんは打ち明ける。 「加害少年を支援することに社会的な理解が得られるだろうか、ということです。そこは社の上層部ともかなり話し合いました。しかし過去に公文式教室の先生が、地元の少年院を訪問して在院中の少年たちへの公文式学習支援に取り組まれていたケースがありました。また創業者は創業間もない時期から全国の児童養護施設などに教材を提供していました。なんらかの事情で十分な基礎学力を身につける機会に恵まれなかった子どものサポートをするのが、私たちの理念でもあります。結果的に加害する可能性がある人を減らして、被害者の数を減らすことができる社会貢献だと踏み切りました」
事業は2021年8月からスタートした。まず全国の少年院に入院している少年・少女たちから希望者を募る。支援対象者が決まると、公文教育研究会の中島英俊さん、実際の学習支援に当たる担当者、心理学の専門家が少年院に赴き、少年の面談に入る。そこで少年の学習目標を聞き、テストで現在の学力を測定する。 「面接した少年たちは、ちょっと見ただけでは私の子どもとなにも変わらないですね。どうしてここ(少年院)にいるんだろうと思う。やはり子どものときに親や教師から適切な手助けが得られていなかったのではないか。まず彼らの更生には学習のための環境が必要だと思います」(中島さん) キズキの先生のひとり、河波圭一朗さん(33)はこう言う。 「少年院を出た子たちの特徴は、大人びていて意外とコミュニケーションのハードルが高くないことですね。もちろん、いろんな意味で『社会の縮図』を体験しているので、最初は『この大人は信用できるのかな』という目で見る子もいますけれど」