再び“入院”する少年・少女を減らしたい――非行少年の人生を変える、少年院出院後の学習支援事業とは #こどもをまもる
元少年が語る、「自分のことを気にかけてくれる人」がいる大切さ
この事業の支援を受けてはいないが、出院後も学習を続けている元少年のAさんは、「とても良い制度だと思います」とうなずく。 「僕がいちばんいいなと思ったのは、毎週1回、自分のことを気にかけてくれている人と話をするということですね。少年院を出たあと、孤独と不安で苦しむと思いますから。気持ちが安定すればおのずと勉強につながっていくと思います」 Aさんは20代の男性。10代後半に無免許で自動車を運転、事故で同乗していた友人が亡くなった。少年院に入り、出院後のいまはアルバイトをしながら建築士になるための学校に通っている。 Aさんが学校の授業についていけなくなったのは小学校3、4年生のときだった。中学に進むと生活も荒れて、万引きや他の非行グループとのけんかに明け暮れた。たまに通学すると授業を妨害し、教師から「帰ってくれ」と学校から弾かれた。「当然なんですけれどね」とAさんは苦笑いする。 少年院に入った当初は、毎日、死ぬことばかり考えたという。 「自分の将来に先行きが見えなくて。5年後10年後には自分は今度は刑務所に行くような犯罪者になるんじゃないかとか、自分より後から少年院に入ってきた人が先に出ていくと置いてけぼりにされたように感じてました」 勉強するきっかけは、「亡くなった友人がいま生きていたら、どうしていただろう」と考えたことだった。 「高校ぐらいは出ているんじゃないか。だったら自分も高卒認定試験を受けてみよう」
小学校の分野から始めてなかなかはかどらなかった。だが途中で入っている少年院が変更になり、改めて勉強に身を入れることができたという。 「新しい担当の法務教官の先生からは『お前、そんなにだらだらしていると、ここを出てもまた犯罪行為を繰り返すぞ』とか、けっこうキツイことも言われました。最初は反発もしたんですが、勉強や悩み相談のフォローをすごくやってくれました。言いっぱなしでなくて、ちゃんと行動もしてくれるので、信じていいのかなと思うようになりました」 数学の問題の解き方を教わっているとき、「こんな解き方もある」と別解を教えてくれた。パッと解けたやり方を見て、「武術の技を見せられているみたい。勉強って面白いな」と初めて思ったという。 Aさんは少年院にいる間、いくつもの資格を取得している。最初は危険物取扱者乙種4類。これに一発で合格して面白くなった。そのあとは同甲種。少年院でも取得した少年はごく少数という。パソコン関係の資格では、他の少年たちに教える体験もした。そして高卒認定試験も全9科目に一発で合格した。 「自分は少年院で勉強に出会いました。勉強して、それを利用してなにかをする。そうして積んだ体験は貴重で、それを捨てるような悪いことはもうできません」 現在のアルバイトも、取得した資格を生かした仕事だ。勉強する→資格を取る→それで仕事に就く、という成功体験のサイクルが彼の生活を確かなものにしている。