再び“入院”する少年・少女を減らしたい――非行少年の人生を変える、少年院出院後の学習支援事業とは #こどもをまもる
「再犯する子には進学も就職もしていない子が多い」 出院後のフォローが課題に
2021年から始まったこの事業は、再犯率を下げる(再犯を防止する)という狙いがある。ここでいう再犯率は、少年院を出た少年のうち、2年以内にまた院に入る少年の率を指す。ちなみにここでいう「少年」には「少女」も含む。たとえば2015年出院者の再犯率は11.0%。2020年の再犯率は9.0%。 学習がなぜ再犯防止につながるのか。同事業を担当する法務省大臣官房秘書課企画再犯防止推進室の担当者はこう説明する。 「少年院出院後、進学や就職をしている者と比べ、無職状態の者のほうが再犯をしてしまうことが多いということが判明しています。また少年院にいる者たちは中卒や高校中退という場合が多く、そのことが進学や就職のしづらさにつながることも少なくありません。さりとて出院後にひとりで勉強を継続するのは難しい」 法務省の統計によると、少年院入院者のうち中学校を出て高校に進学していない者が24.4%、高校中退者が56.9%という。また少年院仮退院中に再犯してしまった者を調査すると、学生・生徒であった者が17.4%だったのに対し、無職者が30.2%だった。 少年院内でもこれまで外部講師を招いた学習支援は行われてきた。しかし「加害少年の学習に税金を支出することに社会的理解が得られにくい」「学力も入・出院時期もバラバラの少年たちを教室で一斉に指導するのは難しい」「出院後も学習意欲がある少年たちの希望に応えられない」という悩みがあった。 今回の事業で採用されるSIBとは、社会的課題を解決するための事業を役所がプロの民間事業者に委託し、民間事業者がその資金を銀行など外部から調達してくる。そして課題解決の成果に応じて、役所が税金から委託費を支払う仕組みである。
今回の事業主体は個人別・学力別学習でおなじみの公文教育研究会である。公文が三井住友銀行など外部金融機関等から事業のための資金提供を受ける。実際の学習指導は東京ならキズキ、大阪なら一般社団法人もふもふネットが担当する。公文はそこに公文式教材を提供する。在院中からフォローが始まり、出院後に学習支援が始まる。各少年への支援期間は最長1年間である。年度ごとに、少年の学習月数や個々の少年に定めた目標の達成度に応じて、法務省から公文に委託費が支払われ、その中から公文は金融機関に借りたお金の償還等をする。 SIBは2010年、イギリスの短期受刑者向けの再犯防止対策として世界で初めて導入された。日本でも2017年から地方自治体が医療・健康分野で活用してきた。今回は国として初めて法務省が採用した。 「SIBを利用すると、成果に応じて委託費を支払うので、財政の効率的・効果的な拠出が可能となり、社会的理解が得られやすい。公文の教材を使った個別の指導なので、個々の少年たちの学力に合わせられる。出院後の学習もフォローできる。また、銀行のように今まで少年の更生と関わりが薄かった事業者に更生について理解を広げてもらう機会にもなります」(前出・法務省担当者)