「芸能事務所の移転、とは考えてないんですよ」ーー創業45年のアミューズ会長、山梨の新本社に込めた願い
気がついたら45年経っちゃった
大学を卒業した大里が、最初に就職したのは芸能事務所大手の渡辺プロダクションだった。ザ・ピーナッツ、梓みちよ、タイガース、キャンディーズ……10組ほどのマネージャーを歴任し、8年後に退社。「アメリカでミュージカルや映画の仕事をする」という長年の夢を叶えるため、ニューヨークへ行く準備をしていた。ところがそんな時、キャンディーズの解散公演や、原田真二のデビューなど、大きな仕事に関わり、その流れで会社を立ち上げることになる。 「頼まれたからマネージメントを引き受け、もう少しお金と力を蓄えたら、改めてアメリカへ行こうと思っていたんだけど、気がついたら45年経っちゃった、ということなんです。僕の人生のターニングポイントと言ったら、そこでしょうね。アミューズを作らざるを得なかった。仲間が集まってきて、面白いこともいっぱいやって。失敗もいっぱいしましたけど、この業界、昔は銀行も相手にしてくれなくて、こんなやり方で、よく45年もったなと思いますね(笑)」 アミューズは創業45周年。長く続ける秘訣を尋ねると、大里は「やっぱり、サザン」と答えた。 「サザンオールスターズのデビューと同時にこの会社を作って。なぜ今まで関係が続いてきたかといえば、サザンの皆さん、特に桑田さんと僕の相性が良かったからかもしれません。桑田さんはじめ、メンバーとはしょっちゅう喧嘩しましたよ。言い争いはあるけど、割と健全なディスカッションであって、よし、じゃあ頑張ろう、という積み重ねが45年。奇跡的だと思います」 時代の変化とともに、メディアのあり方、アーティストを取り巻く環境も変わった。 韓流エンターテインメントが隆盛を極め、若手アーティストたちの独立が目立つこの状況をどう感じているのだろうか。 「韓国は潤沢に補助金を出し、専門的な教育システムを整えるなど、国を挙げて芸能文化産業をバックアップしてきました。BTSをはじめとしたアーティストたちの技術力、レベルの高さは、本当に素晴らしい。世界のマーケットに目を向けた意欲そのものがすごいと思う。日本では、メディアの力が強い時代が続いて、アーティストたちの売り方もパターン化されてしまった。僕たちの世代のせい、また力不足もあると思うけど、最近はダイナミックさが足りないな、とか、もう少し遊び心があればいいのに、と思うこともあります。アミューズはもっとエキサイティングなエンターテインメントを、いっぱいやろうと思っているんですけどね。ただ、簡単ではなくなったとも思っています。マネージメント自体が、難しい。セルフプロデュース、セルフマネージメントできる若いアーティストたちが増えていますから。大きなプロダクションやエージェントが、不要とされる時代です。とはいえ、人間は万能ではない。1人で全部できる人もいるけど、できない部分はチームで補い合って行こうというのが、アミューズの理念ですから」