感受性を取り戻して悲しみや怒りの感情に気付いた。上坂あゆ美流・“呪い”を解いて人生をサバイブする方法
第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(以下『老モテ』)で、歌人として鮮烈なデビューを果たした、上坂あゆ美さん。 【画像】無自覚に周りを傷付ける「シザーハンズ」だったという上坂あゆ美さん。 初のエッセイ集となる『地球と書いて〈ほし〉って読むな』は、不倫にギャンブルにやりたい放題の上、家族を捨ててフィリピンに飛んだ父、女海賊のように豪快で腕っぷしの強い母、ギャルでヤンキーでトラブルメーカーの姉――に翻弄され、自身も無自覚に周囲の人々を傷つける「シザーハンズ」(編集部注:ティム・バートン監督の映画『シザーハンズ』の主人公として知られる、両手がハサミの人造人間)として幾多の失敗を繰り返しながらなんとか生き延びた、サバイブの記録でもある。 長年抱えてきた家族や世の中に対する「怒り」を、鋭利な「言葉」とファニーな「笑い」の力で、ある種のエンタテイメントとして読ませてしまう。生きづらさを抱えている人を光の方へ導く、最高に苛烈でクレバーで切ない、人生の真実をあぶり出すエッセイに圧倒されて欲しい。
「被害者レポ」ではなく面白い方がいい
――『地球と書いて〈ほし〉って読むな』は、上坂さんにとって初のエッセイ集ですが、大半を占めているのが家族のエピソードです。これまでにも短歌やX(旧Twitter)のつぶやきで、家族のことは断片的に語られてはいましたが、家族について書くことに躊躇はありませんでしたか。 自分の中では、家族のことは『老モテ』でも書いていたので、躊躇はありませんでした。ただ、父はもう亡くなっていますが、母と姉は今も普通に生きて生活しているので、家族といえどセンシティブな部分もあるし、過去のことを一方的に書くことの加害性も考える。実在の人のことを書くときは、できるだけ本人にゲラを見せて了承を取っていますが……。とはいえ、姉については最後まで書くかどうか迷いましたね。 ――なぜ、お姉さんだけ書くことを迷ったのでしょう? うちの父親はギャンブル三昧で、家を出るときも私のお年玉貯金を全部持っていくような人間だったけれど、私自身は直接的な暴力を受けたわけではないし、両親が離婚してからはほぼ没交渉だったので、新規に嫌なことは起きない。 でも、姉とは現在も会う機会がそれなりにあって、新規でどんどん嫌なことが起こるので自分の中で感情が定まってない。だから自分がどう思っていて、どうして欲しいのかをわかるのに時間が掛かっていて、今回少し書きましたが、姉に対してはまだ書ききれていない感じがあります。 ――客観的に読むとヘヴィなエピソードも多いのに、あっけらかんと笑える書き方になっているのがすごいです。 あんまり同情されたくないんですよ。『老モテ』のときから、「被害者レポ」みたいに受け取られたくないとは強く思っていました。 個人的な美意識や作風の話になるんですが、「客観的に見たら地獄みたいな状況の中で主人公だけが感じている希望」みたいなシーンが大好きで。それは今回書いた、元デリヘル事務所で暮らしていたとても幸せな日々のことが、原体験になっているかもしれません。