感受性を取り戻して悲しみや怒りの感情に気付いた。上坂あゆ美流・“呪い”を解いて人生をサバイブする方法
呪いを乗り越えないと生きづらい
――そうやって傷付けられてきた上坂さん自身が、無自覚に周りを傷付ける「シザーハンズ」だったというエピソードも、切な可笑しい。 過去、私に傷付けられた人からしたら、お前がこういうこと言うな! って思われてるかもしれませんね。自分は極端だったけど、どうしても若いときって、世界のルールを知らないから他者を傷付けてしまうことがある。私は、生きていく上でほんとうに大切な「真実」みたいなことを、私にわかるように教えてくれなかった社会に対して懐疑的な気持ちがあります。言ってくれたらできるのに、言ってくれないから、知らないまま人をいっぱい傷付けちゃったじゃんって。 今って誰かがやらかしたことに対して、誰かが断罪して負け犬の烙印を押すーーみたいな風潮がすごく強い。でもちゃんと反省して間違いを直そうと努力する人だったら、それを受け入れる社会であって欲しい。だからこそ、自分が過去間違いまくっていたということは書いておきたいと思いました。 ――いやいや、よくぞ生き抜いたとシザーハンズを抱きしめたくなる。そういう意味でこのエッセイは、サバイバーの記録でもあります。 嫌だったこととか、ムカついたとか、いまだに遺恨となっていることに向き合って、整理していくことが、むしろそれのみが、現代の生き抜き方だと思っています。 結局、呪いを乗り越えないと生きづらいし。今、死にそうなほど辛い状況にある人には呪いと向き合えなんて言えないけど、こういうふうに考えたら、ちょっと生きやすくなったよ、みたいなことは伝えたい。それが私は、世の中の「生き抜き方」であり「真実性が高いこと」だと思うんです。 上坂あゆ美(うえさか・あゆみ) 1991年、静岡県生まれ。2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。Podcast番組「私より先に丁寧に暮らすな」パーソナリティ。短歌のみならずエッセイ、ラジオ、演劇など幅広く活動。
井口啓子