障害者への合理的配慮の義務化で何が変わるのか 「障害者差別解消法」の改正を怖がる必要はない
ほとんどの先進国において、「beyonce.com」で見受けられたウェブアクセシビリティの課題は、企業にとって深刻なリスクとなります。しかし日本では、まだあまり認知されていません。 また、映画館における聴覚補助システムは、アプリの導入によって広がりましたが、視覚障害者向けの対応は進んでいません。上映するすべての映画に音声ガイドをつけているのは、国内では私の知る限り、東京都北区にあるシネマ・チュプキ・タバタ、ただ1カ所です。
日本でこうした取り組みが進んでいない要因は、前述したように民間企業において、合理的配慮の提供が努力義務にとどまっていたためでしょう。法に触れない以上、優先順位がどうしても低くなってしまうのは仕方のないことかもしれません。 他に要因として考えられるのが、アメリカと日本では訴訟の脅威がまるで違うことです。アメリカの弁護士数は132万人で、弁護士1人当たりの国民数は251人。日本の弁護士1人当たりの国民数はおよそ2850人なので、単純計算すると、日本では1人の弁護士がアメリカの倍近い事案を担当することになってしまいます。
もちろん、そんなことは実際には不可能で、訴訟件数そのものがアメリカに比べて圧倒的に少ないために、問題が顕在化しづらい状況にあると思われます。 ■障害者対応に企業の大小は関係ない 状況は確実に変わりつつあります。まず、アメリカにおけるADA関連の訴訟件数は、2013年からの8年間で3.2倍に急増しました。 ここで思い出していただきたいのが、2000年以降、企業経営に関するさまざまな制度やルールがアメリカで生まれ、次いで日本でもビジネスに大きな影響を与えてきたことです。コーポレートガバナンスや情報開示をめぐって次々と誕生するルールに頭を悩ませ、対応に追われた経験を持つ方も少なくないはずです。
未上場の中小企業だから関係ない、とも言っていられません。大企業は近年、取引先の人権侵害リスクに神経を尖らせています。また、中小・零細企業の製品もECサイトを介して国境を越えて販売されています。アクセシビリティの問題がてんこ盛りのサイトを、今この瞬間に世界のどこで誰が見ているかがわからないのです。 つまり、未上場であっても、国内のみで事業を展開していても、障害者への差別解消をめぐる世界的な潮流と無縁ではいられないことになります。ここに改正障害者差別解消法の施行が加わり、一気に法的リスクが高まったことは想像に難くありません。