“3本足の女優”が前向きに生き続ける理由。妊娠中の子どもを亡くした悲しみとともに
妊娠を報告された交際相手の反応は…
愛澤さんと話していると、その前向きな思考に驚かされる。だが、ポジティブさを強みとする愛澤さんにさえ、今なおその辛さと向き合い続ける思い出がある。 「5年ほど前、交際していた男性との間に子どもを宿しました。このことは、妊娠できない身体であると言われ続けてきた私にとって、非常に嬉しい驚きでした」 しかし喜びは長く続かなかった。 「交際相手に報告したその席で、彼はいきなり立ち上がり、走って逃げていってしまったんです。それ以来、音信不通です。交際期間中、私にはもったいないくらいの人だと思っていました。配慮が行き届いて、温厚な性格の男性でした。それだけに、彼が逃走したとき、あっけにとられてしまったんです。当時、松葉杖での移動だった私は、突然の彼の行動に動くことさえできませんでした」
妊娠からわずか14週間で悲劇が訪れる
耳を疑う交際相手の行動も、「自分のなかで一人で生み育てる覚悟が決められたので、むしろ感謝している」のだと愛澤さんは言う。本当の悲劇は、そのすぐあとに起きた。 「急激な腹痛に襲われて受診したところ、『子宮内が血液で満たされている。子どもが流れてしまったかもしれない』と言われました。結局、膣内に留まってくれていて、亡くなった我が子とは対面することができました。彼がお腹のなかにいてくれたのは、わずか14週間でした。 本当は、今車椅子を使っているのも、出産・子育てをするうえで車椅子の生活に慣れておこうと思って移行したんです」 現在、“天使ママ”として、流産や死産の経験者が集まる交流会にも参加しているという愛澤さんは、我が子の死を通してみえてくる社会の有様についてこう話す。 「天使ママになってからは、妊婦さんを見るのが精神的につらかったり、亡くなった子どもとちょうど同い年くらいの他の子どもを見ると悲しい気持ちになったりしました。 何より違和感を覚えるのは、社会では生きている子どもの話はするのに、お腹のなかで亡くなった子どもの話はされないんですよね。私も“ママ”なのに、お腹の中で亡くなった子についてはなかったことにされているように感じて、とても悲しくなるんです」