災害前から備える「事前復興」 行政支援をあきらめた100人集落にヒントを求めて
財政支援なし、東日本大震災復興と逆の問題に悩まされ…
東日本大震災の復興は、財政的な支援があっても、住民の意思をくみ取りながら計画を進める時間が与えられなかった。一方、美波町のように南海トラフ巨大地震で被災する可能性が高い地域が取り組んでいる事前復興は、住民主体で計画を考える時間があっても、財政的な支援が得られない。全国知事会なども求めているが、事前復興計画を実現するための予算措置を含む制度づくりは不可欠だろう。 それでも、井若研究員は「縮小していく地域を何とか持続させ、いずれ来る可能性が高い大きな災害もうまく乗り越えて、21世紀後半を迎える。今、やろうとしていることは間違いないと思う」と語る。 そして、「地域づくりの地盤がしっかりしていて、自分たちの住む地域に誇りを持っているから、災害にも立ち向かっていけている。10年以上先を行っている」と評するのが伊座利なのだ。
100人集落独自の事前復興プラン
「地域のためになることなら、できることはなんでもやる!」 行政に頼らずに人口減少、高齢化という課題にいち早く向き合い、人口維持、高齢化率低下という結果を出してきた伊座利。そんな伊座利にとっても、やはり東日本大震災後の東北沿岸部の被害の大きさや、南海トラフ巨大地震の被害想定は衝撃的だった。伊座利漁協の草野さんも「大自然災害は避けては通れない」と語る。 そこで、伊座利の住民が2015年に策定したのが「日常生活の延長線上にある漁村集落版事前復興アクションプラン」だ。行政やコンサルタントの手は借りていない、手づくりの計画書。この策定にアドバイザーとして東京大学の加藤教授が関わっており、災害復興の6法則が踏まえられている。加藤教授はプランについて次のように語る。 「もちろん津波防災についても書かれているのだけれど、それだけではない。むしろ、津波が来る前に過疎化で集落がなくなることのほうが怖いのだと。だから、集落の持続性と津波防災の両方を考えたものになっている。被災しても立ち上がれるような計画です」 実際、全36ページのアクションプランの中身を見ていくと、「持続可能」の文字が何度も出てくる。防災に言及する部分ももちろんあるが、人口減少にどのように立ち向かうのか、集落のなりわいである漁業をどのように維持・発展させていくのか、ということがしっかりと書き込まれている。「日常生活の延長線上にある…」というのは伊達ではない。 また、「地域(住民)自らの取り組み」と「行政に期待する取り組み」を分けていることも注目に値する。草野さんは「防災を考える上で、住民だけではできず、当然行政しかできないこともある。ただ、口で『ああしてくれ、こうしてくれ』と言っても通る時代ではない。地域の計画を基に、行政に対して提案し、『本当は伊座利には金を出したくないけど、仕方ないね』って思ってもらえるネタになっているのが大きな効果だね」といたずらっぽく笑う。