災害前から備える「事前復興」 行政支援をあきらめた100人集落にヒントを求めて
こうして2000年にできたのが「伊座利の未来を考える推進協議会」。協議会の最大の特徴は「子どもからお年寄りまで」の全住民を構成メンバーにしたことだ。 「よくある行政主導の協議会は、何かしらの代表者の集まりになってしまう。でも、本来の地域づくりっていうのは、全住民が関わるべき問題だ。だから伊座利は全住民参画。個人個人に温度差はあっても、できるだけ全住民が関われる組織が必要だと考えたんです」 学校を存続させるためには、地域外から児童生徒を呼び込むしかない。公的な補助や支援を受けずに漁村留学などのイベントを実施したり、関西に多い伊座利の出身者に現状を訴え、応援団「伊座利人」になってもらったりした。この伊座利人は、総務省などが地域の担い手になることを期待する「関係人口」にあたるだろう。 その結果、活動開始当初は100人を切っていた集落の人口が、いっときは120人を超えるまでに増加。現在は自然減などで再び100人程度に落ち着いてはいるが、特筆すべきは高齢化率の変化だ。「当初44%ぐらいだったのが、今は20%台に低下している。新たに移住してきた若者に子どもができたりしたためです。今では、移住してきた人の割合(移住者の子どもを含む)は集落全体の6割を占めています」と草野さんは語る。 自分たちの力で学校を存続させ、消防団員の確保もでき、秋祭りの神輿(みこし)も出せる。 「由岐町時代から何をしてもらうにしても町内で一番最後。そういうことを長年、延々と繰り返されてきたから、行政支援を早くあきらめることができた」。そしてこのことが、後に先進的な事前復興の取り組みを行う土台になった。
災害復興の6原則
事前復興に詳しい東京大学生産技術研究所の加藤孝明教授(地域安全システム学・都市計画)は、伊座利の試みに着目しており、ここに活動拠点を持つ。常駐スタッフはいないが、加藤教授や研究員が定期的に訪れる。加藤教授は、東日本大震災の復興を次のように分析する。 「被害を受けた場合に、どう復興していくのか、どういう復興課題が生じるのか、ということを事前に全く検討していなかった。実際に被害を受けてしまった後には、一生懸命考えている時間はない。極めて短い時間で、その時に使える政策の道具をなんとか組み合わせて何とか乗り切っていったのが、東日本大震災の復興なんです」 加藤教授は、世界の災害復興事例を整理し、以下のような「災害復興の6法則」を提唱する。事前復興を考える上で、とても重要なポイントなので紹介したい。 (1)「どこにでも通用する処方箋はない」 (2)「災害・復興は、社会のトレンドを加速させる」 (3)「復興は、従前の問題を深刻化させて噴出させる」 (4)「復興で用いられた政策は、過去に使ったことのあるもの、少なくとも考えたことがあるもの」 (5)成功の必要条件:「復興の過程で被災者、被災コミュニティの力が引き出されていること」 (6)成功の必要条件:「復興に必要な4つの目のバランス感覚+α(外部の目)」(4つの目とは▽被災者の明日を考える短期的な視点▽将来目指すべき地域を考える長期的な視点▽被災者一人ひとりの住まいなどを考える視点▽集落や街全体を考える視点――を指す)