災害前から備える「事前復興」 行政支援をあきらめた100人集落にヒントを求めて
東日本大震災の復興は時代錯誤だった
加藤教授はこの6法則を踏まえ、「東日本大震災の復興は、結果的に時代錯誤感があった」と指摘する。 時代錯誤とはいったいどういうことなのだろうか。 「日本が持っている復興のいろいろな制度というのは、基本的には昔のトレンドをベースに作られています。昔というのは、中進国(急速な工業化と高い経済成長を実現しつつある国々のこと)から先進国になるトレンドで、成長を前提としたものです。途上国や中進国は、経済にしても、人間にしても、アクティビティ(活気)がものすごくあるわけです。だから、器先行で復興していけば、中身は後からついてきて、結果、素晴らしい復興が導かれるのだ、と」 「しかし、日本のような成熟社会になると、高齢化や少子化が進んでいて、地域社会にそもそも力がない。経済も膨らまない。にもかかわらず、成長を前提としたものをひきずり、『とりあえず箱だけ作る』みたいな考え方になる。その結果、『(成熟社会に対応するための)モデルチェンジができていない』という日本社会全体が抱えていた課題に対する答えを先延ばしにしてきたツケが出てしまった」 加藤教授はこう説明し、人口減少時代に突入した今の日本だからこそ、新しい時代を見据えた「事前復興、復興準備の取り組み」が大切になると強調する。では、災害前にこのような取り組みをうまく進めるためには、何が必要になるのだろうか。
「復興の知」生かしきれなかった
徳島県美波町は、近い将来の発生が危惧されている南海トラフ巨大地震で最大津波高20.9メートル、震度6強以上の揺れが想定されている。ちなみに伊座利で想定されている津波高は13メートルだ。 その美波町に2012年に移り住み、住民主体の「事前復興まちづくり」に取り組んでいる人がいる。徳島大学・人と地域共創センターの井若和久学術研究員(35)だ。井若研究員は、東日本大震災の復興の問題点をどのように考えているのか。 「住民主体のまちづくりという視点が欠けていた。本来であれば『どういうまちにしたいか』『どういう生活をしたいか』ということをベースに、まちのデザインやハード整備を考えなければいけなかったはずなのに、そうならなかった。防潮堤や高台移転などハードから逆算してしまった。こうした問題点は、阪神淡路大震災以降、『復興の知』として蓄えられてきたことのはずなのに、その知を生かしきれなかった」 井若研究員は、美波町北部の旧由岐町の中心「由岐湾内地区」にある美波町役場由岐支所3階を拠点に、住民主体の事前復興まちづくりの計画立案などに取り組む。建物浸水率が99%という被害想定の由岐湾内地区では、若い人が外に出ていく「震災前過疎」が問題になっている。このため、ソフト面での計画立案だけでは間に合わないとして、若者世代が地域に安心して住み続けてもらうことを目的とした「高台住宅地の開発」を急いでいるが、財政的な支援は限られているため、早期実現の道筋は立っていないのが現状だ。