「ほんまにいけるで!」燕とGとは対照的に阪神に揃い始めた優勝へのプラス材料
変わりかけた潮目を6回の小川の好投で一気に阪神が引き寄せる。二死からサンズが詰まりながらセンター前ヒットで出塁すると、好調の大山を迎えたところで、ヤクルトベンチは小川から4年目の大下にスイッチした。小川の球数は99球。高津監督は交代メドを100球と考えていたのだろう。大下はシーズン途中にサイドハンドに転向。そこで結果が出るようになり、13試合で2試合でしか失点していない。その変則サイドをあえて大山にぶつけたが、これが裏目に出る。フルカウントからのこれまたど真ん中のスライダー。大山が捉えた打球は左中間スタンドに消えていった。 阪神で昨年まで7年間コーチを務めた評論家の高代延博氏は、「小川は代え時だったし高津監督の継投にミスはなかったと思う。ただ、それに応える選手がいないというヤクルトの選手層の薄さ、戦力不足が浮き彫りになってしまったということ。この場面では、今年阪神に勝てていないヤクルトの苦手意識が見られた」と指摘した。 「一発だけは避けなければならない場面ではあったが、中村の大山に対する配球は、全部外と低め。警戒心があまりに強すぎて、結局、フルカウントとなり大下はストライクを取りにいかざるを得なくなり、外角低めを狙ったボールが甘く入る失投につながった。1球はインサイドを見せておくべきだったが、それができなかったのは阪神に対する苦手意識がどこかで作用しているのだと思う」 大下はスライダーを4球続けた。すべて外角と低め。2-2から勝負球に選んだフォークがワンバウンドとなり苦しくなって最後にスライダーをコントロールミスした。必要以上に警戒し過ぎたのだ。その背景には、今季この試合も含めて4勝11敗2分と阪神を苦手とするヤクルトの深層心理があったというのである。これで3位のヤクルトとのゲーム差は3.5に広がった。
一方、横浜スタジアムでは阪神を猛追しなければならない巨人が横浜DeNAに連敗。阪神3連戦から1分けを挟んで4連敗とチーム状況は下降線である。先発の山口が4失点すると打線は6回に松原の三塁打を吉川で返した1点だけに沈黙。特に5番で2試合ぶりにスタメン復帰した丸が、また2三振、1四球に終わり、これで24打席ノーヒットと深刻なスランプに陥っている。中継ぎ陣は、疲弊して崩壊寸前。加えて、この非常時に“守護神”のビエイラが2試合連続でベンチを外れるなどの異変も起きている。 高代氏は、阪神、巨人、ヤクルトの3球団の現状をこう分析した。 「巨人、ヤクルト共にチーム状態が阪神に比べて整備できていない。巨人は先発が菅野、山口でさえ7回まで持たずにKOされ、負担のかかってくる中継ぎ陣がさらに苦しくなり、打線も丸の不振で試合を決めるもう1点が取れない。丸は左肩が同時に出てくる“突っ込む”という状態になっていて間が作れていない。現状巨人は阪神を抜き去るチーム状態にはない。ヤクルトも打線には力があるが投手陣の層が薄い。戦力が不足しているから前半戦から酷使した中継ぎ、抑えへのひずみを解消できないでいる」 その中で阪神のプラス材料が際立つという。 「岩崎、スアレスまでにつなぐ7回、あるいは、その前の6回。ビハインドの展開で我慢してもらう中継ぎ陣も含めて不安だったが、小川という新しい戦力が出てきたのが大きい。昨年に比べて制球力が安定して球威も出てきた。まだムラはあるが左腕の及川もその一人。そこに救世主が出てこない巨人とは対照的だろう。そして打線では大山の復活が大きい。あとの懸念材料は佐藤だけになっているが、阪神がこのまま優勝へ向けて突っ走る可能性が高くなった」 4番を外されスタメン落ちするなど懸念材料だった大山が、完全復活どころか、連夜のヒーローとなっており、4番復帰論も高まっている。だが、高代氏は「大山が6番に入って、いい場面で打順が回ってくるようになっている。この流れは大事にしたいし、しばらく今のままでいいのではないか」という意見。 チームの心配は33打席ノーヒットのまま、ついにスタメンどころか代打チャンスももらえず2試合続けて出場機会のない怪物ルーキー佐藤の復調問題だけ。ベンチに塩漬けにしておくのであれば、登録を抹消してファームで10日間、ゲームに出ながら修正をかけた方がいいという声も出ている。 高代氏は、こんな提案をする。 「ファームに落とすのではなく、鳴尾浜での親子ゲームのときにファームの試合にフル出場させればどうか。ただスタメン復帰する理由が必要になってくる。ボールの見極めが良くなったとか、打ち損じが少なくなったとかのきっかけをファームのゲームでつかむのも一手。12日には場外アーチを放つなど相性のいい横浜スタジアムでの横浜DeNA戦がある。そこでスタメン復帰させるという考え方もあるだろう」 すでに3強に絞られた優勝争いの中から抜け出すプラス材料は、阪神にだけ揃い始めているが、優勝へ向けてのラストスパートをかけるには、佐藤の打棒復活が不可欠だろう。 阪神の今日のヤクルト戦先発は、今季初登板となる左腕の高橋遥人。彼も、また巨人、ヤクルトには見当たらない新たなプラス材料だ。矢野監督は「ファームでも順調に来ている。おとなしそうに見えますが、向かっていく投球を見せてくれると思う」と期待を寄せている。