「意見の一致」「多数決」より重要なことは? ビジネスにも当てはまる理想の政治の3条件とルソーの「一般意志」
ルソーは「ロックのやり方は、私たちを奴隷にするだけで、真の民主主義なんて実現できない」と反論し、人民主権の理想像を提唱した。 ちなみにルソーが活躍した18世紀当時のフランスは、国王ルイ15世が国を支配し、2%の貴族と聖職者が、98%の貧しい民衆から税金を取り立て優雅に暮らす、実に不平等な超格差社会で、民主主義など影も形もなかった。こんな中で理想国家が実現可能であることを示すために、ルソーが1762年に刊行したのが『社会契約論』である。本書は、ルソーが逝去して11年後の1789年に起こったフランス革命で理論的な柱になった。 このルソーの思想が分かれば、私たちは合意形成のあるべき姿をより深く学ぶことができるのだ。 ■ ルソーの「一般意志」とは? 「代議士制なんて論外」と主張したルソーは、こう言った。「自分の権利を信託するなんて絶対にダメでしょ。直接話し合って、一般意志に従った直接民主制をすべきじゃないの?」 この一般意志がルソー思想の勘所だ。ただこの一般意志の概念はなかなか分かりにくい。こんな事例で考えてみよう。今度の大型連休で、家族が旅行先を話し合っている。 夫「温泉がいいなぁ」 妻「私は非日常感がいいから、海外旅行に行きたいわ」 子ども「テーマパークに行きたい」 話がまとまらない。そこでルソーが考えた個別意志、全体意志、一般意志で整理してみよう。 【個別意志】 各自の意志のことだ。夫・妻・子どもの3人は、各自の意見(=個別意志)を持っている。ここで多数決で決めるのは最悪。納得しない人が出てきて、あとあと必ずもめる。 【全体意志】 3人の個別意志が「じゃあ、テーマパークにしよう」と一致すれば、それは全体意志になる。しかし全体意志はたまたま個別意志が一致しただけであって、「組織(家族)の意志」とは言えない。もしかしたら夫と妻が妥協していて、心から旅行を楽しめないかもしれない。 【一般意志】 個人が自由な意志を持つように、組織が一つの精神的存在として持つ意志のことだ。これは全体意志と違う。全員で異論を出し合って議論しない限り、組織の一般意志は決まらない。 例えば当初は意見が違っても、話し合った結果、「行き先は、歴史的な街並みや美しい風景が楽しめる国内観光地にしよう。初日は地元のテーマパークに行って、2日目は温泉でゆっくりする。次回の大型連休では海外に行く」で3人が納得すれば、それが一般意志になる。 この例で分かるように、重要なのは意見の一致や多数決ではない。意見の違いなのだ。異なる意見を持ち寄り議論することで、初めて一般意志が生まれる。ルソーの一般意志の考え方は、組織で全員が納得して合意する上で、実に参考になる。 そしてこの一般意志は、国家でも重要なのだ。