脳科学者が解説。人間のなかに眠る「10の才能」とは
【D 視覚空間的知能】 モノの形や配置を脳内で再現する能力です。イメージを3Dで再現する能力ともいえます。近年見つかった物体認識の才能「O」にも重なる能力です。この知能が長けているのは、たとえば建築家や車の運転が得意な人です。頭のなかで立体を回転させたり拡大したり、想像上の建物のなかを歩いたりと、自由自在です。また、地図を読むのが上手な人、一度歩いた道を忘れない人、インテリアや家具の配置を一発で決められる人なども、視覚空間的知能が高いでしょう。 歴史上の偉人でいうと、相対性理論を確立したアインシュタインは視覚空間的知能があったといわれています。彼は、惑星の軌道を脳内で忠実に再現できる特殊な能力があったそうです。なお、ここまでに挙げたA~Dをすべて総合した力が、かの有名な「IQ」という知能指数を構成する基本的な力となります。 【E 音楽的知能】 リズムやメロディー、音の高さや音質などを認識する能力です。私が説明するまでもなく、モーツァルト、ポール・マッカートニー、マイケル・ジャクソン……、音楽の巨匠たちはこの能力が突出しています。 音楽家は当然音楽的知能が高いのですが、作曲や楽器演奏以外のところにこの才能を生かしている人もいます。たとえば、舞台の演出家、イベントの演出家、動画クリエイターなどです。彼らは「この音楽をこの場面で、このタイミングで流すと場が盛り上がる」など感覚的に鋭く、瞬時にわかります。このように、音楽をつくる仕事のみならず、音楽を「アレンジする仕事」にも生きる知能です。 【F 身体的知能】 MI理論では体全体を動かす「身体的知能」と後に述べる「手先の知能」は、身体的知能という表現で1つになっています。しかし、私のこれまでの15年の知見では、2つに分けたほうが、自己理解を深めることができるため、「身体的知能」と「手先の知能」に分類しています。 身体的知能は、体全体を使うことに喜びを感じたり、頭でイメージしたことを体で再現するのが得意な力です。また1つの場所にずっといることができない人が多いことも特徴です。デスクワークが好きでない人は、身体的知能が高いことが多かったりします。 身体的知能に優れた人は、野球やサッカー、陸上、水泳、スキーなどスポーツ選手、力士、フィギュアスケーター、プロダンサーやバレー女優、ミュージカル俳優、配達員から体操の先生まで、とにかく体を動かすことが大好きです。得意でなくても、体を動かすのが好きであれば、大丈夫です。 【G 手先の知能】 料理人や彫刻家、手芸が得意な人など、職人系の仕事をする人たちに顕著な、手先の器用さを表す才能です。医療の世界で「神の手を持つ外科医」と賞賛されるスーパードクターも、この才能の持ち主といえるでしょう。 余談ですが、私の同級生で医者になった人も多かったのですが、外科医になったものの、手先の器用さで苦労している人が少なからずいます。外科医の世界では、頭のよさだけでなく「手先」と「視覚空間」の能力が必須です。もしかすると、手術がいらない内科医や精神科医になったほうが、医者としては成功しやすく幸せを感じやすかったかもしれません。 そういった意味で、学習成績(IQ)だけで進路を決める今の教育システムには、まだまだ課題がたくさんあるともいえるでしょう。