肉が噛めないハイエナ、不思議な「アードウルフ」の生態
アフリカの東部および南部のサバンナに生息するアードウルフ(別名ツチオオカミ)は、警戒心の強い夜行性の動物だ。ハイエナ科に属しているが、その生態は、同じハイエナ科の他の種とはまるで異なる。 他のハイエナたちは、獲物の骨を噛み砕けるほど強い顎を持っているが、アードウルフは昆虫食を特徴とし、昆虫の成体、卵、幼虫のみを餌としている。特にシロアリを好んで食べ、一晩に30万匹という驚くべき数のシロアリを食べることもあるという。 アードウルフも時折、哺乳類の死骸のそばにいるところを目撃されることがある。そのため、大きな獲物を捕らえたり、その死肉をあさったりしているとの印象を持たれているが、実際には、こうした死骸にたかる昆虫や幼虫を食べているにすぎない。実際にはその歯の特性ゆえに、アードウルフは肉を噛み切る能力を完全に失っている。 ■歯が本来の機能を失ったアードウルフ、秘密兵器は強力な舌 アードウルフ(学名:Proteles cristatus)は、解剖学的に特徴のある歯の構造を持っている。臼歯や小臼歯は大幅に退化しており、平らで痕跡的なものになって、顎の中に収まっている。 これらの歯の退化は著しく、もはや肉を噛むことはできない。アードウルフが、食肉目に属する他の動物と違って、狩りをしないのはこれが理由だ。実際、この退化した歯は、成長につれて徐々にもろくなり、抜けてしまう。 アードウルフの摂食行動において重要な部分を担っているのは、歯ではなく舌だ。アードウルフの舌は、シロアリに噛まれても耐えられるほど強靭だ。蟻塚から一晩で数十万匹のシロアリをすくい取ることを考えると、こうした「舌の強さ」は絶対に必要だ。 シロアリを食べる際には、蟻塚を構成している砂も飲み込むことになるが、興味深いことに、この飲み込んだ砂が、大量の昆虫を消化する助けになっている。 アードウルフは、生態系全体で見ると、シロアリ個体数の増加を食い止めるという役割がある。アフリカ東部および南部において、灌木が生えている地域の健全性を保つ上では重要な役割だ。 シロアリは、多数の個体が繁殖可能な状況に置かれると、あっという間に大量の植物を食べ尽くしてしまうという、驚くほどの生殖能力を備えている。これが二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出を招き、生物の生息環境を崩壊させるおそれもある。 アードウルフやツチブタ、キツツキ、アリ、オオミミギツネなどの捕食者は、シロアリの個体数増加を抑えるのに一役買っている。