肉が噛めないハイエナ、不思議な「アードウルフ」の生態
警戒心が強いアードウルフ
■警戒心が強く、広大な縄張りに、複数の巣穴を持つアードウルフ アードウルフは一夫一婦制のつがいを作り、繁殖相手や幼い子と共に、250~1000エーカー(約100~400ヘクタール、東京ドーム20個強から85個分)という広大な縄張りを持つ。自らのテリトリーの維持に腐心するアードウルフは、縄張り内に6~10の巣穴を設けるほか、糞を排泄し、その上に土を被せる穴も設ける。 一夫一婦制のつがい1組がこれだけ広大な縄張りを持つ生態ゆえに、アードウルフは、出会うのが非常に難しい動物として知られている。 このような人目に触れにくい性質に加えて、アードウルフは縄張り意識がかなり強く、侵入者を即座に追い返してしまう。実際、アードウルフはその生涯のかなりの時間を、縄張りのマーキングに費やす。その際には、2つある肛門腺から、非常に特徴的な黒い液体を放出する。縄張りの境界近くや、シロアリの巣に近い場所では、この液体を20分おきに噴出する様子が観察されている。 このように縄張り意識が強く、シロアリという同じ獲物を狙っているにもかかわらず、アードウルフとツチブタ(穴を掘る性質を持つ、鼻の長い中型哺乳類)は、お互いを攻撃しない寛容な関係を築いている。2023年11月に学術誌のEcology and Evolutionに掲載された研究は、そう報告している。 アードウルフとツチブタは、どちらも夜行性で、昆虫を主な餌としているが、両者の関係では、片方だけが一方的にメリットを得ている。つまり、ツチブタがシロアリを探して穴を掘るのに対して、アードウルフは、自身が餌を食べるためにツチブタが掘った穴が便利に使えると見ると、これを強奪してしまう。 アードウルフは、数世紀にわたって人間たちを魅了し、先住民の伝承や芸術作品に頻繁に登場している。さらに、狩りの対象となり、他のブッシュミート(野生動物から得られる食肉のこと)と同様に、その肉が食用に供されることさえある。こうした習慣がある地域社会の例としては、ナミビア北東部およびボツワナ北西部のカラハリ砂漠に住むサン人(旧称ブッシュマン)のグループ、Juǀʼhoansiがいる。 国際自然保護連合(IUCN)が定めるレッドリストでは「低危険種(LC)」と評価されているものの、他の種と比較しても研究はほとんど進んでいない状況だ。今日でも、一部の農村では、家畜への脅威だという印象を持たれている。だが実際には、アードウルフは動物の肉を食べることはない。それどころか、害虫になり得る昆虫を食べることで、農民たちの役に立っている。
Scott Travers