今年は辻村深月デビュー20周年イヤー!2024年の年の瀬にどっぷりつかりたい“辻村作品”8選【書評】
琥珀の夏
大人になる途中で私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。2021年に単行本が刊行された『琥珀の夏』(文春文庫)は、かつてカルトと批判された「ミライの学校」の敷地から発見された白骨死体を巡る物語。
主人公である弁護士の法子は、30年前に「ミライの学校」夏合宿に参加していた。そこで出会ったミカという友達が物語のキーパーソンとなっており、法子の過去と学校の謎が交差することで“罪”が浮かび上がっていく。同作の最終章では、読み進めていくうちに涙がこみ上げる圧巻の展開が待ち受けている。“辻村ワールド”の新たな一面も垣間見られるので、最近の作品を追っていないという人にぜひオススメしたい。
嘘つきジェンガ
辻村作品では、時事的なテーマが扱われることもしばしば。2022年の『嘘つきジェンガ』(文藝春秋)は、いまだに社会問題として取り上げられる「詐欺」を題材にした3つの物語が展開されていく。第1話「2020年のロマンス詐欺」では、2020年の緊急事態宣言下で生活に困った大学生の加賀耀太が「メールでできる簡単なバイト」としてロマンス詐欺の片棒を担がされてしまう。
第2話「五年目の受験詐欺」は、いわゆる裏口入学がテーマ。そして第3話「あの人のサロン詐欺」では、覆面作家になりきってオンラインサロンを運営していた“子ども部屋おばさん”紡の物語が描かれる。騙す側・騙される側、双方の心理を巧みに描いた同作は、辻村作品の真骨頂を体感できる作品といえるかもしれない。
この夏の星を見る
人類を未曾有の危機に陥れた新型コロナウイルス。2023年に発表された『この夏の星を見る』(KADOKAWA)は、コロナ禍によって活動の制限を余儀なくされた茨城県立砂浦第三高校の天文部を巡る物語だ。
コロナ禍は多くの人を苦しめたが、限られた学校生活を謳歌する機会を奪われた学生たちも、被害を受けたといえるだろう。本来楽しめたはずの学校行事がことごとく中止に追い込まれ、クラスメートと顔を合わせる機会も減ってしまった。しかし、コロナ禍だからこそ訪れた出会いもあったのではないだろうか? すべてを狂わされた若者たちが手を取り合い、ひとつの目標へと突き進んでいく。あの時代を経験した人にこそ、ぜひ手に取ってみてほしい作品だ。 人間の感情に対する解像度が高く、どんな人でも楽しめるのが辻村作品の最大の魅力。20周年以降の執筆活動を応援する意味でも、歴代の著作を一読してみてはいかがだろうか? 文=ハララ書房