今年は辻村深月デビュー20周年イヤー!2024年の年の瀬にどっぷりつかりたい“辻村作品”8選【書評】
かがみの孤城
『かがみの孤城(上・下)』(ポプラ文庫)は2018年の「本屋大賞」を受賞し、累計発行部数200万部を超える辻村氏のベストセラー作品。同作の主人公である女子中学生の安西こころは、ある日突如として部屋の鏡に吸い込まれ、城のような不思議な建物へと招かれる。タイムリミットまでの約1年、城に隠されている“ある部屋”の鍵を見つけ出すことができれば、どんな願いもひとつだけ叶えてくれるというのだ。
こころ以外にも6人の中学生が招かれており、各々が生々しく苦しい事情を抱えている。それらを隠しつつも鍵探しを通して心を寄り添わせ、明日へと向かう勇気を手にしていく――。君は一人じゃない、どこかに味方がいる……そんなメッセージが込められた作品だ。
噛みあわない会話と、ある過去について
同じ言語を話しているのに、言葉が通じていない感覚。立場や価値観が違うだけで、こんなにも噛み合わないのか……と感じたことはないだろうか。『噛みあわない会話と、ある過去について』(講談社文庫)は、どうしようもなく分かり合えない人間たちの姿を映し出した短編集。
収録作のひとつである「ママ・はは」は、楽しむことを悪だと考える“真面目教”の母親と、その支配からなんとしても逃れようとする娘の関係がテーマとなっている。どんな家庭でも起こり得るちょっとしたすれ違いから世界が歪みだす、まるでSFのような展開は、辻村氏ならではの表現法といえるのではないだろうか。 なぜ言語でコミュニケーションを取れる人間が、時に動物よりも分かり合えないのか。その真理が同作には隠されているのかもしれない。
傲慢と善良
累計発行部数110万部を突破し、2024年9月に実写映画化も果たした『傲慢と善良』(朝日文庫)。同作はマッチングアプリで知り合って婚約することになった男女の、女性の方が突如として消息を絶つという摩訶不思議な出来事を巡る物語だ。
男性は婚約者を必死に探すのだが、その過程で相手の過去や嘘に直面していく。“傲慢と善良”、この言葉とマッチングアプリが重なり合った時、一体何があぶり出されるのか……。ちなみに同作は多くの読者から「人生で一番刺さった小説」という評価が相次いでいる。その理由が気になる人は、ぜひ一読してみてほしい。