今年は辻村深月デビュー20周年イヤー!2024年の年の瀬にどっぷりつかりたい“辻村作品”8選【書評】
2004年に『冷たい校舎の時は止まる』(講談社)で第31回「メフィスト賞」を獲得し、鮮烈なデビューを果たした作家の辻村深月氏。2024年は彼女のデビュー20周年イヤー。本稿では、辻村氏の著作の一部を振り返りつつ、改めて彼女が紡ぐ物語の魅力に迫っていく。 まとめ記事の目次 ●スロウハイツの神様 ●東京會舘とわたし ●かがみの孤城 ●噛みあわない会話と、ある過去について ●傲慢と善良 ●琥珀の夏 ●嘘つきジェンガ ●この夏の星を見る
スロウハイツの神様
読者の感情に寄り添う巧みな心理描写に定評のある辻村氏。そんな彼女が2007年に発表した『スロウハイツの神様(上・下)』(講談社文庫)は、夢に向かうクリエイターたちを描いた物語だ。同作の舞台となるのは、クリエイターやその卵たちが集う家「スロウハイツ」。家主である主人公の赤羽環は映画監督や漫画家を志す友人たちと共同生活を送りつつ、人気脚本家として活動していた。
まるでトキワ荘のような魅力的な空間で好きなことに没頭し、時には刺激し合う住人たち。デビューしているクリエイターとその卵たち、それぞれで異なる不安や葛藤が描き出されていく。人間ドラマとしてはもちろんミステリー作品としても楽しめるので、“辻村ワールド”の入門編としてオススメしたい作品だ。
東京會舘とわたし
大正11年に“民間初の社交場”として建てられた東京會舘。宴会や結婚式といった催しに使用される伝統的な建物で、芥川賞や直木賞などの授賞式にも使用される作家にとっても縁深い施設である。『東京會舘とわたし(上・下)』(文春文庫)は、そんな東京會舘をテーマにした連作短編集だ。
物語は史実をなぞりながら進行し、上巻では関東大震災や太平洋戦争の影響を受けた歴史を中心としたストーリーが、そして下巻からは現代に迫りつつ各章の登場人物たちが重なり合い、驚きと喜びに満ちたミステリーが展開されていく。実在する施設ということもあり、読了後はきっと東京會舘を聖地巡礼したくなるに違いない。