「手入れるのためらう」小学校で使う「クジ入れ」の〝度胸試し感〟が話題に 「ドキドキが2倍になる」
「怖くない」に負けじと
実は、井上さんがダンボールで、子どもたちの〝度胸試し〟をするのはこれが初めてではありませんでした。 最初は15年ほど前の節分でした。家で豆まきをしようと考え、仕事場にあったダンボールで鬼のお面を作ったのです。 小さい頃から工作が好きだったという井上さんは、箱に穴をあけて頭に被るタイプのお面を作りました。赤い紙を貼って角をつけたものでしたが、かぶって帰宅すると、息子たちは悲鳴をあげて、予想以上の反応を示したそうです。 手作りのお面は家の「恒例行事」になりました。 成長した息子たちから「もうお父さんのお面、あんま怖くない」と言われると、井上さんは負けじとさらに凝った細工をほどこしてパワーアップさせていきました。
めちゃくちゃ無駄なことが「贅沢」
仕事とは違い「何の制限もなく自由にやりたい表現ができる」のが楽しくなり、最初の数年は鬼がメインでしたが、邪神など「怖いだけでなく不思議なもの」にもテーマを広げました。 作るのは一貫して、かぶるフルフェイス型のお面がメインです。「没入感が強い」と言います。 頭にあるのは、小さいころ、祖父に連れられて通った民族博物館で見た、世界中のさまざまなお面の光景。 そして仮面ライダーに出てくる「怪人」たち。「怪人はヒーローよりも多種多様な姿をしていて、怪人の方に憧れがありました」 かぶるだけで自分を変えることができるーー。そんなダンボールのお面に魅了されていきました。 SNSでお面について投稿すると「ワークショップをやりませんか」と依頼がきたり、展覧会への出展の誘いがきたり、アーティストからライブでかぶるお面の制作依頼がきたりするまでになりました。 年に2~3個というペースでお面を作りつつ、今はその楽しさを伝えようと、年数回のワークショップも行っています。お面をつくって被り、人と共有するという一連の行為を「ダンボル」と呼んでいます。 ダンボールという身近な素材であることが〝創作〟へのハードルを低くしていると言います。 「素材がダンボールだともったいない、とか余計な感情がわかないんです。はがして、つけなおせて、『失敗』がないのが良さです」 親子で作るときは相談しあって思いも寄らないものができることも。デスクワークが多い大人の参加者からは「こんなに自分の手を動かすことは最近なかった」という感想が聞かれたこともあるそうです。 井上さんは「〝タイパ〟や〝コスパ〟といったことが話される時代に、めちゃくちゃ無駄なことをやっているんですけど、それを親子で楽しめる時間が、とても贅沢になっている世の中なんだなと感じています」と話しました。