崖地は家づくりに理想的!?困難な敷地をものともしない建築家の自邸。誰にも邪魔されない理想の空間を実現したプランを紹介
テラスに面したダイニングスペースを拠点として同じ1階にキッチン、武さんの仕事場を兼ねたライブラリー、寝室、バスルーム、トイレ。2階に千恵さんの仕事場、茶室、2つのロフトスペースが設けられています。 この家で唯一の個室といえるトイレを除き、いずれの部屋も間仕切り家具や腰壁で分けられているだけで、吹き抜けの空間を共にしつながっている、大きなワンルームのような構成です。 玄関にマットはあるもののたたきはなく、テラスからコンクリートの地続き。 ダイニングテーブルもコンクリートでつくったのは、内と外がひっくり返るような感覚が欲しかったからだそう。
吹き抜けを見上げると、3層になっている梁の構成が非常に独特で、印象的です。 下から高さ1200㎜、900㎜、300㎜の梁が、縦横に重なって交差。 高い所ほど細くなる梁のパース効果によって、天井が実際の高さ4200㎜よりも遠く見えつつ、天窓から空へと視線が抜けていきます。
一見ランダムで複雑に見える構成を支える、厳格な規則性
いったいどのようにしてこのイレギュラーな梁の構成を考えられたのか、伺ったところ「一見ランダムに交差していて複雑に見える梁は、実は2730㎜間隔、3×3=9分割のグリッド上に重なっています。つくり方としては、古代ギリシャ建築のような等分割や黄金比を忍ばせているんですよ」 ルールに則った規則正しい設計を徹底するほど、空間に多様性が生まれ、経験として豊かなものになる―― そう考え、潔いプラン、強い建築をつくりたいと思っていたら、設計に5年かかったそう。その間、出たプランは100案以上。 最終的に、モンドリアンの抽象画と相通ずるようなコンポジションにたどり着いたのでした。 以前の大きな吹き抜けのある事務所に1/1スケールで線を引いてスタディを重ね、時間帯によって動く太陽光が天窓から入って梁に当たりどう映るかまでを計算し尽くした結果、想像通り、イメージ通りの空間が完成したそうです。