崖地は家づくりに理想的!?困難な敷地をものともしない建築家の自邸。誰にも邪魔されない理想の空間を実現したプランを紹介
神奈川・逗子駅から程近い山中にある、建築家・後藤武さんと千恵さんご夫妻の自邸。 山の斜面に沿って一戸建てが並ぶ住宅街の端の、崖っ縁に立っています。 【写真で見る】こんな家に住みたい!ネコもご満悦な建築家の幸せな自邸の全貌 以前は横浜の中心部に事務所を構え賃貸マンションで暮らしていましたが、2022年春、この家の完成に伴い、事務所と自宅の機能をすべてここに集約しました。
子供の頃の思い出から建築家としての経験までが結実した家
実は、家を建てようという思いは20年以上前から抱いていたという後藤さん。逗子には親戚が住んでいて子供の頃よく遊びに来ていた思い出もあり、いずれは逗子でゆっくり暮らしたいと考えてきました。 昔から変わった土地を探すのが趣味で、ネットで長年検索してきた結果、逗子周辺でいちばんよいと、ついに見つけたこの場所。 かつて電波塔が立っていた崖っ縁の10m四方ほどの土地は、長年誰にも手が付けられず、雑草が茂り、打ち捨てられていたようなものでした。 しかし、そこが建築家の後藤さんにとってはむしろ魅力的に映りました。
道路から2m下がった崖っ縁に潜む、輪郭が見えない箱
後藤さんは建築家としてこれまで依頼を受けてきたなかでも、なぜか崖地に住宅をつくることが多かったといいます。 難しい挑戦を重ね、熟練し、「崖地だからこそできることがある」という発想に至るまで、経験値が蓄積されてきた。おかげで「ここならこれまでにやってきたことを生かせるし、やりたいことができる!」と確信できたそうです。 土地を8年前に購入して以来、設計に費やした歳月は5年。長年にわたる思いや経験、土地との縁を結実させた家が、2年半前にようやく竣工しました。
あえて閉じた箱が、森への没入感と感覚の広がりを生む
この崖っ縁の敷地を見たとき、山全体に囲まれている感覚を貴重に感じた後藤さん。その環境のなかに住んでいる実感をどうやったら得られるか、考えました。 普通であれば大きなガラスの窓でフルオープンにしようとするところ、あえて閉じる部分をしっかりつくる。 また、山の森に没入する感覚を得るため、窓を低くする。 さらに、1階と2階を担う2つの四角い箱を、崖の傾斜に合わせ斜めにずらして積み重ねることにより、地形と一体になるよう設計しました。 この「ずれ」が、外部が中に入り込んだような、内部が外に飛び出したような、中間的な居心地を実現。 全体が単純な直方体ではない、輪郭線の曖昧な建物にすることによって、内外の境界がグラデーションにつながり、内部空間がどこまであるか掴みにくい空間と感覚の広がりを生み出しています。 2層が重なった中央部分を吹き抜けとすることによって、天井高が低い部分との対比も生み出しています。「空間がどこまでかわかってしまうと、住んでいる自分たちが飽きてしまいますから」