生活リズムが狂いやすい人へ。眠りにつく時間に感じる漠然とした不安を和らげるコミックエッセイ【書評】
夏休みや冬休みに昼夜逆転した経験がある人は少なくないだろう。仕事や学校がはじまったとき、中々元の生活リズムに戻れず苦労するまでが様式美だともいえる。しかし、世の中には休みかどうかは関係なく、生活のサイクルが狂いやすい人がいる。『眠れぬ夜はケーキを焼いて』(午後/KADOKAWA)では、作家・午後の眠れなくて不安な夜のすごし方を描いている。 【漫画】本編を読む
作者は生活サイクルが狂いやすいことで入眠時間や睡眠時間が安定しないため、起きたら深夜ということもあるらしい。真夜中に起きてしまった日には、まるで1日を無駄にしてしまったかのような不甲斐なさを感じるという。そんな起床した時点で少し落ち込んでしまった夜に元気があれば、真夜中のお菓子作りがはじまる。
生産的な活動をすることでウジウジとした気持ちを薄められるうえ、お菓子はおいしく食べられる。不安な夜にはお菓子を作ろう。そう思うだけでも何となく心が軽くなる気がしてくるから不思議だ。夜に作るお菓子のおすすめは、簡単・おいしい・雑でもOKの三拍子がそろった「パウンドケーキ」だという。 もはや一種のレシピ本としても活用できる本作では、とても丁寧にさまざまな物の作り方が紹介されている。お菓子だけにとどまらずご飯や小物などの作り方まで教えてくれるのだ。
本作の魅力はどんな人にも優しく寄り添ってくれることにある。誰もが眠りにつく時間に漠然とした不安に襲われ、眠れなくなってしまったときはこのマンガを手に取ってもらいたい。何とも優しく愛おしい世界をめくっていくと、不思議と心が癒されるような気がしてくるはずだ。 何より愛おしいと感じるのは、その生活の丁寧さだ。不安な夜に打ちのめされそうなのに、お菓子を作るための工程をひとつずつ大切にできる。はかりを仕舞うシーンなんて、まさに丁寧さの象徴ではないだろうか。お菓子や料理を作っているとき、はかりを片付けるタイミングにまで気を回さない人は少なくないはずだ。これほど丁寧に生きるには、きっと相当なエネルギーを使うのだろうなと想像してしまう。だが、そんなちょっとした仕草に人の生き方を感じ、愛おしくて堪らなくなるのだ。