【#佐藤優のシン世界地図探索87】トランプ革命② 法を超えて自らが法になる「トランプ王」
佐藤 ウクライナですよ。かつての米国であれば、自由と民主主義ためだったら『ランボー3 怒りのアフガン』ではないですけど、アメリカ人が自ら戦地に行ったはずです。 ――確かに行きます。 佐藤 血を流すことによって自分たちの価値観を守ったはずなんです。こんな戦争のアウトソーシングを30年前の米国だったらやったと思いますか? ――やっていないと思います。 佐藤 だからバイデンの米国を見てわかるのは、価値観が完全に「宗教ゼロ」の国なんですよ。 トランプ革命というのはそのニヒリズムに対抗して、米国を取り戻そうとしています。上手くいくかはわかりませんが、ヨーロッパは絶望的までにニヒリズムに陥っています。だけど、私は米国にはまだ再生の希望があると今回の選挙で見えました。 ――いまの米国は、歴史上のローマ帝国が収縮していく過程に似ていませんか? 佐藤 その通りです。西ローマ帝国になるのか、東ローマ帝国になるかの違いです。ハリスが当選していたら西ローマ帝国になりました。しかし、トランプは上手に収縮して、長く続けていく東ローマ帝国を選択したということです。 ハリスの西ローマ帝国だと、恐らく中国に覇権交代されるような道を選んでいるはずですからね。トランプは恐らく東ローマ帝国化(ビザンツ)し、徐々に縮小して、ひとつの循環的なシステムを作ると思います。そして、そのシステムは北米を中心に、中南米も太平洋も巻き込んで、縮小した米国を作って行くことになります。 これまでペトロダラーを頼って、ちょっと才覚のある奴が大金を手にしていた米国との決別ですね。 ――リベラル用語を使用すると、『持続可能な帝国』にしていくということですか? 佐藤 そういうことです。それをやるには世俗化された形でもいいから、宗教的な使命感がないとできません。 ――その東ローマ帝国化した米国の最西の辺境に位置する日本は、中華大帝国とどう付き合って生き残ればいいのですか? 佐藤 中国との間の棲み分け、それだけです。中国が国内で何をしようが関与せず、「ただし我々日本に中国のルールを押し付けないでね、軍事侵攻しないでよ」というだけです。極端な形で言うと「国内で何しようが勝手にしてください、だけど、こっちには来ないでね」、です。 ――なんとなく心細いですが。 佐藤 ただし、何かしてくる可能性があるので、防衛力は合理的かつ十分なレベルに高めなければなりません。 ――そして、収縮していく東ローマ帝国となった米国の最西端でくっついて生き残る。 佐藤 そうです。 「トランプ革命③ 敗北した西洋の惨状」へ続く。次回の配信は2024年12月13日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生