【#佐藤優のシン世界地図探索87】トランプ革命② 法を超えて自らが法になる「トランプ王」
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! 前回、『【#佐藤優のシン世界地図探索86】トランプ革命① 米大統領選挙で"アメリカ王"となったトランプ』はこちらから * * * ――佐藤さんは前回の連載で、"王"となったトランプは「司法権を超えること」から手を付けるとおっしゃっていました。司法権を超えるとは、法を超えるアウトロー(無法者)になるという意味ですか? 佐藤 そういうことではありません。 まず、アメリカの大統領が持っている権限は絶大です。それをいままでの大統領はみな、行使してこなかったので"王"にはなりませんでした。しかし、トランプ王はその権限を行使せざるを得ない状況に置かれてしまったのです。 ――たくさん訴追されているからでありますか? 佐藤 そうです。だから、司法権を超えないとトランプは仕事ができない状態なんです。 ――裁判に関係する者を全員、ギロチンで処刑するのですか? 佐藤 そこまではしません。トランプは刑事被告人として多くの裁判を抱えていますが、有罪になった場合、かなり面倒なことになりますよね。犯罪者が国を運営するトップになるということですから。そうなれば、超法規的に免訴するか、刑の確定後に恩赦にすることになります。 ――それはややこしいですね。 佐藤 とにかく、概念で説明できないようなことで、この裁判は散ってしまわないとならないのです。 ――トランプ革命の最初の目標は、司法権を支配することですか? 佐藤 近いのですが、支配するのではなく、司法権に対して拒否権を持つことです。もっともこれについてはバイデン大統領が12月1日に、次男のハンター・バイデン氏を恩赦しました。ハンター氏は薬物依存の事実を偽って違法に銃を保持したとして有罪評決を受けています。 ――すでに自分の概念では、理解も説明もできない状況です。どのように拒否権を持つのでしょうか? 佐藤 戦前のミュンヘン大学に、オットー・ケルロイターという国法学者がいました。東大でも教鞭(きょうべん)を取っていた人物です。 彼の著書に『ナチスドイツ憲法論』があります。この本では、権力を獲得したヒトラーがワイマール憲法を改正し、ナチスドイツ憲法を作ろうとする話があります。しかし、それに対してケルロイターは反対します。 ――なんでまた。相手は「総統」ですよ?