「はだしのゲン」閲覧制限、論点は何?/賛否両論まとめ
広島の原爆被害を描いた漫画「はだしのゲン」を松江市教育委員会が小中学校の図書館で自由に読めなくするよう指示していた問題で、賛否両論が沸き起こっています。さまざま論点が出ており、必ずしも議論がかみ合っていないようです。新聞の社説やネット上の議論などから論点をまとめました。 そもそも松江市で閲覧制限騒動が起きたきっかけは、1人の市民が市議会に提出した陳情書です。陳情書の趣旨は、「ゲン」は「天皇陛下に対する侮辱、国歌に対しての間違った解釈、ありもしない日本軍の蛮行が掲載」されていて、子どもたちに「間違った歴史認識を植えつけている」ため、小中学校図書館からの撤去を求めるものでした。陳情書は不採択になりましたが、市教委は「小中学生には描写が過激」という別の理由で閲覧制限を打ち出しました。
戦争と平和を考えさせる
閲覧制限への反対論には、残虐な描写が戦争の悲惨さを教え、平和について考えさせるという意見があります。毎日新聞の社説はその1例で、「戦争が人間性を奪う恐ろしさを描いた貴重な作品として高い評価を得てきた」とし、原爆被害の実態を広く世界に伝えてきたことも指摘しています。ブロガーのイケダハヤトさんは、小学校の図書館における漫画の求心力の強さを挙げ、「学校以外では読むことはないけれど、価値があるマンガ作品」だからこそ、学校図書館に置く意味があると書いています。
過激な描写は事実なのか
閲覧制限への賛成論では、子どもに見せるべきではない過激な描写の例として、日本兵が妊婦の腹を切り裂いて赤ん坊を引っぱり出したり、女性器の中に一升瓶をたたきこんで骨盤をくだいて殺す場面などが挙げられています。こうした描写が事実に基づいているかについて疑問の声も上がっています。「素人戦史マニア」を自認するジャーナリストの石井孝明さんは、「旧軍全体が統一的に残虐行為を行ったという事実が記された戦史書、公文書があったら、教えてほしい」と書きます。 反対論の中には、松江市教委のような規制は「表現の自由」を侵しかねないとの声も出ています。これに対して、問題は「ゲン」が小中学校の図書館にふさわしいかどうかであり、表現の自由とは関係がないとの反論もあります。 「ゲン」の政治性についても意見が分かれます。産経新聞の阿比留瑠比編集委員は「特に天皇に対しては、作者の思想の反映か異様なまでの憎悪が向けられる」と批判しているのに対し、朝日新聞の社説は「天皇の戦争責任をめぐっては今もさまざまな見方がある」としつつ、「子どもと大人が意見を交わし、一緒に考えていけばいい」と論じています。