発達特性のある人が「 円滑なコミュニケーション」を図るための4つのポイント
「負ける」という手段を選べ
私は、ナレーション業界に入ってすぐ、「仕事をする上で、この人はできると思われることが大切だ。たとえ声の仕事であっても、見た目は重要だよ」と教えられました。 清潔感はもちろんですが、相手から、「この人は仕事ができそう」と思われることは、いい印象からスタートすることができるので、その後の仕事運びが楽になります。 ですから、ジャケットを羽織ってみたり、ヒールを履いてみたりして、できる人を演じようと心がけたのですが、どうしても仕事ができなさそうな人にしか見えません。 キャリア20年を超えた今でも、不安そうな顔をされることが多く、初対面のディレクターさんには、「大丈夫ー? 緊張してるんじゃないのー? リラックス、リラックスー!」などと言われる始末です。私が、挙動不審なのが理由なので仕方ないのですが、さすがに、「まったく緊張などしてませんけど」と言い返したくなります。 しかし、ここで絶対に反発してはいけません。「負ける」という、手段を選ぶのです。 「ははは。そうですねー、リラックスしてがんばります」と、一旦相手に主導権を握らせます。そうすると相手は気分よく、優しくディレクションしてくれます。 私の反撃はここからです。ナレーションの技術で、証明するのです。もちろん緊張などしてませんから、声も震えませんし、相手の要望にどんどん堂々と応えていくのです。 相手の予想を超えるいいナレーションを提供できたとき、それは私の勝利です。私が心の中でガッツポーズをする瞬間です。この瞬間がたまらないのです。相手を言葉で打ち負かす必要などなく、一旦「負ける」を選ぶことで、大反撃に出ることができます。 相手に失礼なことを言われたときも、仕事の場では「負けて」あげましょう。反撃しても、相手の気分を損ねるだけで逆効果だからです。 「そうですね。ごもっともです」を繰り返しながら、自分の思う方向に相手を操るほうが、結果、相手を自分の手の内に引きずり込むことができます。 相手からのマウントには、負けてやりましょう。なめられているくらいが丁度いいのです。そのほうが相手は油断します。スカッと気持ちのいい逆転勝利が待っていますよ。
中村郁(声優)