寝苦しい夜におすすめ。睡眠の「質」を高める方法を専門医が解説
日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。今回は、「睡眠の『質』を高める方法」について。 【写真】睡眠をサポートするアイテムまとめ
Q. 睡眠の「質」を高める方法が知りたい! A. ポイントは「深部体温」と「皮膚温度」の差を縮めること 良質な眠りを手に入れたいなら、「体温」に注目してください。体温は1日のなかで上がったり下がったりと変化しています。通常、人の体温は「日中は高く、夜間は低い」ものといわれますが、これは深部体温(脳や内臓など体の内部の温度)に限った話です。 皮膚温度(体表面の温度)はその逆で、「日中は低く、夜間は高く」変化します。また、健康な人であれば、覚醒時の深部体温は、皮膚温度より最大2℃ほど高くなっています。深部体温が36.5℃の人であれば、皮膚温度はおよそ34.5℃です。 眠くなると手が温かくなるのは、入眠前には手足の先に集中している毛細血管や動静脈吻合から熱放散が行なわれ、深部体温を下げているからです。このとき、深部体温は覚醒時より0.3℃ほど低い36.2℃まで下がり、皮膚温度との温度差が縮まっています。 深部体温と皮膚温度の「温度差が縮まること」が、入眠のカギです。眠気は深部体温が下がるにつれて強くなりますが、それだけでは不十分なのです。深部体温と皮膚温度の差が縮まると眠気がさらに増すので眠りやすくなり、睡眠全体の質を左右する「黄金の90分」を手に入れることにもつながります。 ■眠る90分前の入浴で、体温を「上げて・下げて・縮める」 深部体温と皮膚温度の差を縮めるうえで、もっとも有効とされる方法が入浴です。皮膚温度は深部体温に比べて変化しやすく、冷たい水に手をつければ冷たく、お湯につければ温かくなります。とはいえ、恒常性(生命を維持する働き)が保たれているので、例えば40℃のお風呂に入ったとしても同じ温度までは上がりません。上がってもせいぜい0.8~1.2℃です。 一方、深部体温は熱をさえぎる筋肉や脂肪などの組織で覆われているので、周囲の影響をあまり受けません。しかし、入浴には深部体温をしっかりと上げる効果があります。実際に私たちの実験では、40℃のお風呂に15分入ったあとで深部体温を測定すると、0.5℃上がりました。深部体温は大きく上がると、その分だけ大きく下がろうとします。この作用により、深部体温と皮膚温度の差が縮まって眠りに入りやすくなるのです。 0.5℃上がった深部体温が元に戻り、さらに下がり始めるには90分以上の時間が必要です。つまり、就寝の90分前までに湯船につかって深部体温を上げておくと、眠る頃には深部体温が下がってきてスムーズに入眠できます。入浴する時間がとれない場合はシャワーなどで済ませることになりますが、残念ながらその際の入眠効果は期待できません。足湯や靴下などもうまく活用しましょう。 【おすすめの足湯方法】 ⚫︎就寝30~60分前に行なう ⚫︎40~42℃のお湯を使う ⚫︎10~15分つかる ⚫︎ラベンダーなどリラックスする香りのバスソルトを使うのもおすすめ 【靴下の活用方法】 手足が冷えて眠れない人は手足の毛細血管が収縮しているので、靴下をはいて足を温め血行をよくすることで熱放散を促進できます。ただし、靴下をはいたまま寝ると足からの熱放散がさまたげられ、かえって入眠を妨害してしまうので、寝る直前には脱ぐこと。 ⚫︎寝る1~2時間前からはく ⚫︎締めつけないゆったりサイズのものをはく ⚫︎ウールなど天然素材のものを選ぶ ⚫︎ストレッチや足のマッサージをすると、より血行が促進される ⚫︎入眠時には脱ぐ 教えていただいたのは… 医学博士 西野精治 スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。 構成・取材・文/国分美由紀 出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)