3歳児検診で「検査受けて」発達障害と不登校経て大学生となった息子の親が気づいたこと
3歳児検診で「発達検査を受けてください」
アツコさんが長男ケンタ君を連れ3歳児検診に訪れたときのことだ。保健師の女性が「お母さんと話すからお絵描きしててね」と小さな手にプラスティック製の色鉛筆を握らせた。バキバキバキッ。色鮮やかな鉛筆はあっという間に折られてしまった。 「な、何してるの!」 女性に鉛筆を取り上げられたケンタ君、今度はペッ、ペッと床に唾を吐きまくる。アツコさんに「やめなさい!止まりなさい!」と羽交い絞めにされるとわんわんと泣きわめいた。ハアハアと息を切らせた母と子は、保健師から「とにかく、一度児相(児童相談所)に行って発達検査を受けてください」と低い声で告げられた。 「1歳半くらいから他の子と全然違いました。落ち着きがないというかとにかく大変で、私自身追い詰められていました」(アツコさん)。チャイルドシートに座らせると窮屈なのが嫌だったのか、からだを折ってベルトの連結部分に頭を打ちつける。食事になるとテーブルの上にある皿や醤油を床に落とす。保育園でも園庭にあるホースを持ち出し部屋に水をまいた。 検査の結果は「グレーゾーン」。専門医による詳しい検査は2年待ちだが、まずは療育を受けましょうと言 われた。アツコさんは「やっと私の大変さわかってくれたと思いました。この子をどういうふうにしていったらいいのかわからず困り果てていました」という。飲食関係で早朝から夜遅くまで働く夫にはなかなか相談できない。解決策が見つからず、孤独だった。
「お母さん、しんどかったね」
療育を受ける先として、福祉広場を紹介された。代表を務める池添さんに「お母さん、しんどかったね」とねぎらわれた瞬間、張り詰めたこころの糸がするするとほどけていくのを実感した。3歳下の妹がちょうど誕生したころのことだった。 ――お母さん、あのな。気持ちはわかるよ。でもな、怒ってもしょうがないんよ。それは解決方法にならへん。怒りたくなるようなことをされたら、まずは子どもの気をそらしなさい―― 「怒っても何も変わらへんよと言われて、その通りやと思いました。私の剣幕に(ケンタ君が)おしっこを漏らすほど激しく怒ることもありましたが、まったく効きませんでしたから。それと、(福祉)広場の他の先生たちが日頃からまったく怒らないので、めっちゃ納得しました」 福祉広場でシャボン玉遊びをした際、カップに入れてもらったシャボン玉液をケンタ君が室内の床の上にまき散らしたことがあった。付き添っていたアツコさんが怒ろうと立ち上がったものの、スタッフは「あらあら~」と笑うだけ。ささっと床を拭き、新しいシャボン玉液をケンタ君に渡して「こうやって吹いてみて」と一緒に遊び始めた。 「先生たち、絶対怒らへん。すごいな思いました」 ――子どもたちが親を困らせるような行動をするのには、ちゃんと理由がある。親にとって困ることかもしれないけれど、それは本人がやりたいことかもしれない。本人が困らないよう、他のことをさせてあげましょう―― 大人にとって「困った子」は、実は「困っている子」。よく言われることだけれど、私たち大人はそのことをつい忘れてしまいがちだ。池添さんは「退屈だったり、一瞬やることがなくなって、大人を困らせるようなことをやってしまう。一見何も考えていないように見えて、子どもの行動には理由がある」と解釈する。