「ノーベル賞」ってどんな賞なの? 坂東太郎のよく分かる時事用語
●基礎研究などによる「発見」の受賞目立つ
過去にどのような研究が評価されてきたのでしょうか。 自然科学3賞の受賞者をみると「発見」が目立つのが特色です。華々しい実用的成果を生みがちな「発明」「応用」に比べると地味で、多くが基礎研究。ですが、そうした研究の功績を世に知らしめる意義があります。 物理分野の過去の受賞研究を見ると、南部陽一郎氏(米国籍)の「素粒子物理における自発的対称性の破れの仕組みの発見」(2008年)や、梶田隆章氏の「ニュートリノ振動、それによるニュートリノ質量の発見」(2015年)など。化学分野では吉野彰氏らが「リチウムイオン電池の開発」(2019年)が受賞。この研究がなかったらスマホは今の何倍も大きかったかもしれません。生理学・医学分野では、本庶佑氏の「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」(2018年)が記憶に新しいところです。 昨年2021年は、真鍋淑郎氏(米国籍)らが「地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発」で物理学賞を受賞しました。 日本に関して見ると、2000年以降、日本出身の研究者は20人(うち3人は米国籍)が受賞しており、活気あふれる状況と言っても過言ではありません。ただし詳細に確認すると「今の日本は昇り龍だ」というイメージとはだいぶ異なります。というのも、比較的若い時分の業績が高齢になって評価されたケースが多いからです。受賞時の年齢では、80歳代が赤﨑勇氏と下村脩氏、南部氏。70代が小柴昌俊氏、根岸英一氏、本庶氏という具合です。賞は「存命中」が対象ですから長寿を得ていないとノーベル賞としては評価されなかったかもしれません。 その意味では、受賞が50歳だった山中伸弥氏や43歳だった田中耕一氏のように、比較的若い世代の研究者が今後も出てきてほしいし、評価もされてほしいですね。
●「文学、平和、経済学」それぞれの特色
自然科学3賞以外ではどうでしょうか。文学賞は、ノーベルの遺言から「理想的な方向性に最も傑出した作品」に授けられます。ただ個別の作品というよりは作家の全体的な業績が対象となり、理想主義や人道主義を訴えた文学者を顕彰する傾向があります。日本人の受賞者には川端康成氏(1968年)、大江健三郎氏(1994年)がいます。2016年には米国のシンガーソングライターのボブ・ディランさんが受賞したことも話題になりました。 平和賞は、同様にノーベルの遺言により「国家間の友愛、常備軍の廃止あるいは削減、及び和平会議の開催と促進に最大あるいは最善の貢献を行った」人々が対象です。中国の民主活動家で投獄されていた劉暁波氏(2010年)のような人選がある一方で、「核なき世界」を表明しただけで受賞したオバマ米元大統領(2009年)のように「本当にふさわしいのか」と疑問の声が上がる選考もあります。日本人では「非核三原則」を打ち出した佐藤栄作元首相が唯一の受賞者になっています。 平和賞は団体の受賞も唯一可能で、2020年には食糧支援を行っている国連機関の世界食糧計画(WFP)が選ばれました。 後発の経済学賞には「本当にノーベル賞か」という側面があります。ノーベルの遺言には基づいておらず、正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」。ゆえにノーベル財団の基金からではなく、スウェーデン国立銀行が賞金を拠出します。 ただ前述のように、物理学、化学と同様に王立科学アカデミーが選考し、ストックホルムで授賞式が行われます。主な受賞者には、「ゲーム理論」が有名な米国の数学者、ジョン・ナッシュ氏(1994年)らがいます。
---------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など