イスラエルとレバノン「60日停戦」に至った事情、弱体化したヒズボラとイスラエルが迎える試練
・レバノンは、全国境、チェックポイント、南レバノンラインに治安部隊および軍隊を配備する。 ・イスラエルは、60日以内に国境以南へ段階的に撤退する。 ・アメリカは、イスラエル・レバノン間の交渉を間接的に促進する。 イスラエルのネタニヤフ首相は、停戦の発効に当たってビデオメッセージを公表した。その中で、停戦する理由は次の3つであると述べた。 1.イランの脅威に対応するため 2.武器の供給に遅れが出ているため 3.ハマスを孤立させるため
ハマスが始めたこの戦争で、イスラエルは7正面の戦いを余儀なくされてきた。ガザのハマス、レバノンのヒズボラ、西岸地区のテロリスト、イエメンのフーシ派、そしてイランの革命防衛隊およびイランが後ろ盾のイラクとシリアの武装勢力である。 イスラエルはガザに拉致された人質救出を第1目標に掲げており、当初ヒズボラには限定的な反撃にとどまった。ヒズボラも「本格的な戦闘拡大は望まない」として、攻撃対象をイスラエル北部に限定した。こうして対ヒズボラ戦線は、消耗戦の様相を呈していった。
■そもそもの戦闘の契機 そのような中、事件が起きた。2024年7月27日、ヒズボラが発射したミサイルがイスラエル領内のドゥルーズ村に着弾し、12人の子どもが死亡した。 ドゥルーズとはイスラム教の一派で、イスラエルやレバノン、シリア、ヨルダンにまたがって住む少数派だ。イスラエルでは主にゴラン高原などの北部地域に住んでいて、イスラエル市民権を持ち、イスラエル国防軍(IDF)にも従軍している。 この事件が契機となり2024年9月19日、イスラエルは「北の矢作戦」を開始、本格的なヒズボラとの対戦が始まった。作戦開始から8日後の9月27日、IDFはベイルート南部のダヒヤを空爆し、ヒズボラのナスララ最高指導者を幹部もろとも排除したのである。
この作戦に先立って、ヒズボラメンバーが所持するポケットベルやトランシーバーが爆発し、数千人が死傷するという事件が起きた(「ハマス・イスラエル戦争から1年・中東情勢の行方」参照)。 この攻撃について、イスラエルは沈黙を貫いているが、イスラエルの諜報機関が関与したのは間違いないだろう。 今振り返ると、この作戦は実に計画的だった。最初はポケットベルの爆発。ポケットベルは一方向の受信のみなのでヒズボラの中でも下位メンバー、翌日に爆発したトランシーバーは双方向なのでより上位メンバーが対象となっている。