「ドヤ顔」外交と「弱気」内政 トランプ政権 試練の2019年“2つの顔”
アメリカのトランプ大統領の2018年は、米朝首脳会談や米中貿易戦争など派手な対外攻勢をしかけ、年末にはシリアからの米軍撤退表明とそれに絡むマティス前国防長官の辞任を招くなど、「アメリカ第一主義」に基づく政策遂行にはブレがありませんでした。ただ昨秋の中間選挙では下院で民主党の勝利を許したほか、依然としてロシア疑惑がくすぶり続けています。2020年のアメリカ大統領選の再選を見据えるトランプ大統領の2019年は、一体どうなるのか。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に展望してもらいました。 【図】強くて実は脆いアメリカ大統領 「弾劾」に必要なプロセスとは?
◇ 支持層と反支持層で明らかにアメリカ国民を二分してきたトランプ政権にとって、2019年は大きな試練の年となりそうだ。
●「2つの大統領制」
大統領の政策をめぐって「2つの大統領制(Two Presidencies)」という古典的な研究がある。簡単に言えば「大統領は外交政策に強いが、内政は弱い」という分析である。外交は大統領の専有事項であるため、比較的積極的に政策を行うことができるが、比重では圧倒的に大きい内政については、議会のコントロールが大きいため、どうしても自由に動けない。 この研究そのものは1960年代のアーロン・ウィダフスキーという研究者の冷戦時代の分析であり、現在のアメリカ政治とは異なる面も少なくない。例えば、現在の場合は当時の「大統領対議会」という対立軸よりも、政治的分極化の時代を反映して「共和党対民主党」という政党対立の方が目立っている。 しかし、それでも「ドヤ顔」の外交と「弱気」の内政というこの2つの顔が2019年のトランプ政権の方向性かもしれない。
●内政の停滞
昨年11月の中間選挙の結果、上院では共和党が多数派を維持、下院では民主党が制した。トランプ氏の就任以来、2年間続いてきた「統一政府」が終わり、「分割政府」に再び戻ることになる。いわゆる「ねじれ」である。 「ねじれ」たとしても、かつては大きな問題はなかった。アメリカの議会は政党の党議拘束がないように政党内の結束が緩やかなため、政党間の妥協も容易であり、法案投票の際には票の貸し借りのようなことも一般的だった。 しかし、分極化が進み、「共和党対民主党」という政党対立が激しくなった。その結果、分割政府になると一気に政策が停滞する。オバマ前大統領の場合、統一政府だった最初の2年には医療保険改革に代表される大きな政策を実らせたが、2010年の中間選挙で下院の多数派を共和党に奪還されると、一気に政策は動かなくなった。「何もできなかった大統領」という辛辣なニックネームは最初の中間選挙後の6年間のものだ。 これと同じ状況にトランプ氏が陥るかもしれない。民主党が下院で多数派となることでトランプ大統領の手法に対する拒否反応に似た動きが出てくるだろう。トランプ政権の政策上の目玉である。インフラ投資政策もなかなか動かないかもしれない。道路や鉄道などの老朽化インフラの刷新に的を絞れば政策を推し進めることができるかもしれないが、メキシコ国境沿いの「壁」建設に執着し続ける限り、民主党側の妥協はなかなか難しい。 「トランプ景気」を支えてきた減税、規制緩和などの政策も民主党側との差も大きい。