家賃の10倍もう不要? 関西で姿を消しつつある賃貸住宅の「保証金」
修繕に要する費用はもらうべきだが
保証金や敷引きをめぐる裁判の中には、借り手側の訴えが退けられたケースもありますが、少なくともこれらの訴訟が保証金物件の減少を後押しした可能性は十分ありそうです。 賃貸経営の勉強会などを行う家主の団体「がんばる家主の会」事務局長で、大阪府内で義父から引き継いだアパートとマンションを経営する橋本和正さんは、これらの訴訟をきっかけに保証金から敷金・礼金に切り替えた家主の1人です。 実は橋本さんは、敷金・礼金が一般的な関東の出身。「借りる人によっては壁に大きな穴をあけるなどひどい使い方をする人もいますので、そうした場合に必要な分だけお金をいただくのは問題ないと考えています。それでも、きれいに使う使わないを問わず、敷引きで一律に多額のお金を持っていくのはどうなんだろうと考えていました」。橋本さんが敷金・礼金に変更した後、知人の家主にも保証金を取りやめる動きが相次いで、5~6年前には橋本さんの周囲の家主の物件が軒並み敷金・礼金に変わっていたそうです。 この他、橋本さんは「インターネットの普及」も保証金物件減少の一因にあげます。 「ネットのないころは、不動産の店舗に行かないと物件が探せませんでしたが、最近はネットを使って希望する条件の物件をいくつも探すことができて、借りる側にとってより有利な条件の物件を選びやすくなりました」 ネットで物件を見比べられる環境が整ったため、初期費用の高い保証金物件は選ばれにくくなったのではないか、と橋本さんは見ているのです。
初期費用が低下、「ゼロゼロ」物件も
保証金という商慣習がなくなりつつあるのは、こうした複数の要因のためと見られます。家主の中には「昔は儲かったのに」と嘆く声もあるそうですが、保証金が当たり前だった時代よりも初期費用は安くなり、賃貸物件が借りやすくなったと感じます。今回、筆者が大阪府内で借りたのは、敷金なし・礼金約2.3か月分の物件でした。 菱矢さんは「入居者が退去すると、家主はたいていその物件のリフォームをします。保証金がもらえないとなるとリフォームに使えるお金も少なくなりますので、たとえば以前なら壁紙を必ず張り替えていたのに、今ではちょっとぐらいの汚れならそのままにしておくなど、リフォームが甘くなっている物件もあるようです」と指摘しますが、「この先、もはや保証金の復活はないと思います」とも語ります。 伊藤さんは「関西では保証金の物件がほぼなくなるとともに、敷金・礼金が0円の『ゼロゼロ』物件が増えており、現在SUUMOに掲載されている賃貸物件の半数を占めている状況です」と、初期費用そのものが減少傾向にあるといいます。 これは首都圏でも同様で、リクルート住まいカンパニーが9月1日に発表した「2019年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」によると、回答者が契約した物件の敷金は平均1.0か月となり、2009年度の平均1.5か月分から3分の2に減少。敷金ゼロ物件の契約割合は25.5%で、2009年度の7.2%と比べると約3.5倍に増えているのが現状です。 初期費用が減少傾向にある中、新たな初期費用を導入しているケースも。「たとえば、礼金と同じように返ってこない初期費用なのに、『何とか償却金』などと礼金とは違った名前にしてお金を支払わせようとする物件があります」と指摘するのは、明海大学不動産学部の中村喜久夫教授。 「不動産業界の自主規制ルールでは、契約に必要なお金はすべて広告に記載しなければなりません。もし契約する段になって、広告に載っていない初期費用を求められる場合は、ルール違反なので契約しない方がいいでしょう。また、広告の備考欄に見知らぬ初期費用の項目が書いてある場合は、事前に意味を確認し、理解した上で契約するか否かを検討しましょう」と注意を促しています。 (取材・文:具志堅浩二)